平成30年度から、全国農業システム化研究会の現地実証調査として、「複数作物による農業機械汎用利用における生産コスト低減」をテーマに、水稲乾田直播(以下乾直)の実証に取り組む熊本県。9月24日に、実証農場であるネットワーク大津で、トリプルエコロジーで播種を行った乾直圃場の収穫作業が行われました。
【 耳より情報 】
❶ 漏水が激しい圃場でも鎮圧することで乾田直播栽培が可能!❷ 播種深度を浅くすることで、昨年よりも発芽苗立ち率アップ!
今年度の乾直実証では、圃場2筆を使用し、鎮圧機や除草体系等を比較、それぞれの生育結果から経営効果の算出を行っています。実証結果は今後考察されますが、収穫期の圃場からも見て取れるように、漏水田でも移植と遜色ない稲姿に生育、乾直における鎮圧の重要性が確認されました。また、今年は播種深度や肥培管理の改善により、発芽苗立ちや分げつが昨年よりも向上するなど、多くの効果が挙がった実証結果となりました。しかしながら、昨年度から課題となっていた除草面では、除草剤散布回数を減らすことができたものの、圃場内で雑草が散見され課題が残る結果となりました。
課題をひとつひとつ解決して、地域に普及できる低コスト技術を完成させたい
【お客様の声】
昨年の反省点を踏まえて、今年は除草剤や鎮圧体系の試験を加え、改めて乾直に挑戦しましたが、課題を残した結果となりました。昨年同様見た目は慣行移植と変わりませんが、雑草が多く出てしまいました。何が原因か明確には断定出来ませんが、播種を行ったあと、その日に鎮圧ができなかったことが原因の一つと考えています。うちは漏水田なので、1日開けたら土壌表面が乾燥しサラサラになってしまうことで、除草剤の効果が薄れた可能性はあります。
試験では、ケンブリッジローラと振動鎮圧ローラの2種類の鎮圧機を比較してもらい、どちらが経営体にあった機械かを試せたことは新しい収穫です。どちらも鎮圧効果は良かったのですが、うちみたいな大規模で経営しているところだと、ケンブリッジローラの方がスピードが早いので、効率的だと思います。実証の総合評価はプラスマイナスゼロといった結果ですね。収量も昨年と横並びな気はします。周りから「乾直できるんですか?」と訪ねられますが、今わかっていることは、漏水の激しいうちみたいな圃場でも、収穫期を迎えることができ「乾直ができる」ということです。自信をもって、「できる」とはまだ言い難い状況ですが、だからこそ地域に自信を持って発信できる技術に仕上げたい。乾直はまだ2年目です。ここで辞めたくないですね。目に見えてわかる課題から徹底的にクリアしていきたい。
今日の収穫作業は新たに導入したDR6130で行いました。導入の決め手はKSAS対応農機というところですね。スマート農業をやっていく中でで、KSASの活用は不可欠です。しかしながら、現在、保有機にKSAS対応農機が少ないため、今後の経営を考えてKSASとの連動がしっかり取れるクボタのコンバインを導入しました。この先も活躍してほしいですね。
担い手にやりがいのある農業を目指した地域づくり
【お客様の声】
ネットワーク大津が一番大切にしていることは担い手を新しく作ることです。担い手が前向きに、面白く、やる気を持って農業に取り組んでもらえるようにしています。
経済活動においては、生産性の向上が重要です。農業は生産性を大幅に向上できる産業だと考えています。生産性アップをどのように実現していくかを考えつつ、社員には自分から進んで色々なことに取り組んでもらいたい。今回の実証も、若手の取組みが認められるような環境を作っていくためには、大切な取組みだと感じています。やりがいを感じないと、担い手は育ちません。実証等に取り組むことで、良い方向に流れが変わってきているのかなと思います。トータルの成績をみて今後の経営にどう反映していくか考察していきたいですね。
「地域の担い手になったら苦労する」と思われるような農業にはしたくありません。スマート農業やICT、IOTなど取り入れて、若い方に興味を持ってもらいたい。最近興味深いことがあったのですが、若い社員がドローンを飛ばすんですよ。すると面白がってみんな見に来るんです。ドローンのようなスマート農機は農業にとって良い意味で影響力があります。
うちは地域に還元する農業を目指しています。乾直に取り組んでいる理由も、生産性の向上が目的です。どれだけ面積を広くして、コスト低減して所得を生み出すことができるか。会社の収益にもなりますが、それをまた地域に還元していく。還元していく方法としては様々な技術を取り入れて、地域のためになるように生産性の向上を図り、経済を活性化していく。たとえば、うちは構成員が約300人いますが、その方たちを「総担い手」と呼んでいます。働ける方は働いてくださいと、気軽に働いていただけるシステムを作っています。急に、地域のリーダーがいなくなっても大丈夫です。うちには担い手がたくさんいますから。
うちにも課題はたくさんありますが、そんな中で今行っている農業を子供が見て、将来大人になった時に「担い手になろうかな」と思ってもらえるような雰囲気を、地域で助け合って作っていくことが大切だと思います。
大規模経営に乾直の技術は今後必要になります
【担当者の声】
大規模な生産組織で乾直を導入するメリットのひとつは、苗作りの手間を省力化できるところです。個人では苗づくりをまかないきれなくて、外注を行うこともあります。限られた人員で広い面積をこなすには、乾直などを導入する必要があります。水管理や除草面で、通常移植と異なる点がありますが、作業スケジュールも分散できて、労力・コストも削減できることから、普通移植との組み合わせ技術として検討する必要があると考えています。
【お客様の声】
昨年からの課題に挙げられていた雑草面においては、完全な解決には至りませんでした。しかしながら、昨年は除草剤を4 回散布しましたが、今年は3回に減らすことができたのは、除草剤の変更における効果が出たと考えています。残草については、播種・除草剤散布から鎮圧までの時間があり(翌日)、土壌表面の乾燥により、除草効果が十分に得られなかったことが原因と考察しています。昨年、播種深度が深すぎて苗立ち数が少なかった点が問題に挙げられていましたが、本年の実証では浅く播種することを心がけましたので、苗立ちは良い結果に繋がりました。生育過程で、茎数や分げつが昨年より多く確保されていたので、適正な播種深度の把握ができたと考えています。
大規模経営体ですと、水稲だけではなく、麦・大豆も導入しているところが多く、今回播種に使用した「トリプルエコロジー」のような汎用性の高い機械も合わせて導入することで、よりコスト削減に繋がります。播種時や9月の検討会には管内 の法人組織からも参加していただきました。春作業の労力軽減になにかいい方法はないかと他の法人さんも模索しています。その中で、乾直に興味を示していただけるなら、我々としては支援をしていきたいと考えています。
乾直に興味がある農家の皆様を積極的に支援していきたい
【クボタ技術顧問による解説】
今年は病害虫(主にトビイロウンカ)が例年の3~4倍と多発し、防除面で苦労したとお聞きしています。乾直は箱施薬をしないので、どうしても防除の回数が増えてしまいます。そういった時でも簡単に施用ができる農業用ドローンをおすすめします。ネットワーク大津様でも農業用ドローンを活用して防除作業を行うことで、適期に防除が実施され、実証圃場ではウンカの被害は少ないものとなりました。
大規模経営や稲・麦・大豆を栽培している経営体では、春作業が混雑するため、トリプルエコロジーを利用した乾直は、春の耕起・代掻き作業が省略できることから、非常に関心が高まっています。複数作物での機械の汎用利用によるコスト低減等を考えると、経営に取り入れる価値のある技術と考えています。
昨年度、初めてネットワーク大津の漏水の激しい火山灰土壌で乾直の実証を行う時、「本当にできるのか」という不安の声がありました。しなしながら、課題は残したものの、しっかりとした稲に生育し、収穫期を迎えました。別地域からも「あの圃場で、あれだけできればうちでも十分にできる」というお声も頂いております。今後クボタとして、乾直をやりたいという農家様には支援をしていきたいですね。