島根県では、水田園芸の推進を目的として2023年より水田を活用した野菜作の省力・低コスト生産の実証に取り組んでいます。3年目の今年はさらなる省力化の提案として、津和野町で農業用ドローンを野菜作に活用する取り組みが行われています。5月16日には3月に移植作業が行われたキャベツほ場において、農業用ドローンT25Kによる3回目の防除作業が行われました。
目次
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キャベツほ場におけるT25Kによる防除作業の実演会
実証の主旨を説明する島 根県農業 技術センター の佐々木真一郎主任
T25Kによるキャベツ栽培の防除で作業時間94%削減
早朝6時、うっすら日が登り始める時 間帯に津和野町にある農事組合法人もと ごうのキャベツほ場に集まった関係者の 目線の先には、農業用ドローンT25Kが ありました。ドローン防除の実証について、島根県農業技術センターの佐々木主 任は「農業用ドローンを園芸品目に転用 したいと県内の生産者や普及担当者から 多くの声が寄せられています。そこで令 和7年度の全国農業システム化研究会の実証調査の一環として農業用ドローンT25Kを用いたキャベツ栽培の防除の試 験を行っています」と経緯を説明。「実証では生育ステージに合わせて計画的に農 薬の散布を実施しており、その都度、付 着状況等を確認しています。複数回行ったドローン防除の結果から適切な散布条 件が見えてきました。また、現段階で作 業時間も慣行区と比べると94%削減で きることがわかりました」と実証の成果を示されました。
ほ場でコナガなどの害虫防除としてT25Kで液剤 (ベネビアOD剤)を散布
2段局所施肥の有用性を追求。初夏どりでさらなる省力化を図る
島根県では昨年度に引き続き、2段局所施肥を活用したキャベツ栽培の実証調査を行っています。令和6年度の収穫結果(11月実施)は、2段局所施肥を行うことで、窒素施肥量を慣行比25%削減しながらも、結球重の増加と収益性が向上しました。また今回の実証では“初夏どり”の作型を採用しています。「近年、夏にかけて猛暑日が続いています。暑すぎるとキャベツは大きくならず、中耕作業中の身体的負担もかかります。よって、夏の暑い時期を避けるために本年度は初夏に収穫を行う“初夏どり”の作型で実証を行っています。この作型は、防除や中耕除草などの管理作業が水稲の春作業と被ります。そこで、短時間で作業が行える農業用ドローンの活用に着目しました」
と佐々木主任。さらに、本地域で導入が始まっている緑肥栽培の播種作業を効率的に実施する方法として、ソルガムの種子と粒状肥料のドローン散布を実施しました。その結果、慣行栽培とそん色ない生育状況で、今後、農業用ドローンを水稲だけではなく、園芸品目、緑肥栽培など水田の高度利用に活用していきたいとのことです。
3月19日に行われた2段局所施肥機を使用したうね立 て。肥料削減を目的に速効性、緩効性の肥料をそれ ぞれ上下2段の層に施用する
令和7年度 島根県 システム化研究会現地実証調査 概要
ドローンによる緑肥栽培(粒状肥料・種子同時散布)
生産者の声
島根県鹿足郡津和野町
【栽培面積】農事組合法人もとごう 22.6ha (水稲:21.7ha、キャベツ 0.9ha)
代表理事 林靖登様
柳井里絵子様
散布性能が高く、液剤、粒剤共に散布ができるT25Kは魅力的
「現在、農業用ドローンMG-1SAKを保 有していますが、バッテリが弱ってきて おり、そろそろ更新を考えています」そ う話すのは実証農家である農事組合法人もとごうの林代表。早くから農業用ドローンを水稲栽培で活用し、ドローンの有用性について理解している林さんは、「実証でT25Kを見て、性能の違いに驚いています。液剤散布装置は、散布部分のアトマイザの回転数を変更することがで きるので、天候や作物にあった散布量が 調整でき、無駄がなくなると感じました。 また、散布機を交換すれば、粒剤・液剤と もに散布ができるので、汎用利用の可能 性が広がり、魅力的です」と経営に対す るメリットに高い期待を持って注目され ています。
T25Kは人手が足りない時期に初心者でもドローン散布が行えます
実演会に参加されていた、組合員の柳 井さんは「もとごうは規模が大きい割に、 人手が足りないことが課題です。防除作 業はドローンで行っていますが、現在操 作ができるのは林代表だけです。今回実 証で使用しているT25Kは、プログラム しておけば、私のような初心者でも作業 が行えるので、限られた人数で作業を 行っている現状にピッタリだと感じま す」と課題解決への糸口をT25Kに見い出しています。「昨年、人手不足の影響 で水稲栽培の管理作業に手が回りません でした。T25Kは散布時間を短縮でき、 適期散布が可能となるため、品質維持・ 向上につながると感じました」と柳井さ ん。地域農業の活性化を図るため、スマー ト農業を駆使した栽培を行いアピールす ることで、“農業はしんどい”というイ メージを払拭したいと、未来を見据えて います。
地域の生産者、普及指導員に向けT25Kの実演会が 行われ、ドローンの散布性能の高さに感嘆の声が上 がった
午前中に行った防除作業には液剤散布機を使用
アトマイザは、回転数を変更することで、散布粒径を50~500μmの範囲で調整が可能
▲午後の実演会では粒剤散布装置に変更
▲T25Kで緑肥ソルガムの播種と除草剤散布を実施
クボタ技術顧問の解説
株式会社クボタ 技術顧問 森 清文
野菜作における農業用ドローン防除のメリット
野菜作のドローンを活用した防除の実証は近年、活発に行 なっていますが、島根県では初めて実施しました。今回の実 証は中山間地で、近接する場所に道路や電柱、ガラスハウス があるほ場で実証しましたが、ドローン散布実施前にほ場登 録、飛行経路、散布条件等の設定を行うことで短時間に問題
なく、規定量の農薬を無駄なく散布することができました。 また、ドローン防除は空中散布になるので、傾斜地はもちろ んのこと、降雨後のほ場がぬかるんだ条件でも、散布が可能 でタイミングを逃さず適期防除が実施出来る等、様々なメ リットがあります。
防除作業は、早朝、夕方の無風に近い状態が基本、薬剤の粒径は500μmが最適
薬剤防除は、風が弱く、気温、湿度が低い早朝か夕方が良いとされています。農 業用ドローンでの散布も同じで、風が強いとロスが大きくなるため、無風で上昇気 流がない時間帯に短時間で作業を行い、風速3m/s以下での散布が基本です。また、 今回のキャベツの防除はスケジュール散布を実施しており、長期残効のある薬剤を 選定しています。4月19日、1回目の散布後に付着状況を調べたところ、散布する際 の液剤粒径が小さく葉裏まで付着していない傾向がみられました。そのため2回目 からの散布では、粒径500μmと大きくし、速度は15km/h と少し抑え気味に、高度 は3mで散布を行いました。その結果として、薬液の付着程度を調べる感水紙には しっかり薬剤が付着していたので、今回のほ場条件では、キャベツ防除での粒径は 500μmが適すると考えています。
ドローンのKSAS連携で日々の作業を見える化
T25Kは、KSASと連携することが可能です。T25Kを飛ばすだけで作業日誌が自 動で作成されます。露地野菜の生産者の中には、あちこちにほ場が点在していたり、 1日に何か所も散布作業を行う場合も多いため、自動で作業日誌が作成されること で、作業後に記録する手間を省くことができます。さらにKSAS上で進捗状況が確 認できるため、作業全体を把握でき、散布間違いを防ぐことができます。また、散 布記録が蓄積されているので、次年度への防除計画も立てやすくなります。
ほ場とキャベツ の葉に設置され た感水紙
散布後の感水紙
KSAS上に動画で記録されたドローン散布の※矢印は表示されません 作業軌跡(5月7日散布)




