環境に配慮した農業への取り組みや、資材費高騰による肥料削減の動きが広がりを見せる中、佐賀県では2023年から、園芸作物の栽培におい て、省力・低コスト化を図るべく、使用する肥料を約3割削減できるうね内2段局所施肥の実証を進めています。昨年、試験場内でブロッコリーの 栽培において技術を検証した結果、肥料を削減しながらも収量・品質ともにばらつきが少なく良好な結果が得られました。そこで、2024年には県 内の生産者のほ場において現地実証を進めており、9月13日に、うね立て同時2段局所施肥の実演会が実施されました。
実証担当者の声
佐賀県佐賀中部農林事務所 佐城農業振興センター
普及課土地利用方作物・畜産担当
丹下 友紀子 様
花蕾のばらつきが少ないことにメリットを感じます
昨年佐賀県農業試験研究センター白石分場で、全国農業システム化研究会の現地実証調査 として、うね内2段局所施肥の実証を行いました。結果として、使用肥料を3割削減し、なおかつ 追肥を行わない体系ながら、花蕾の生育のばらつきが少なく収量も慣行区(全層施肥区)と同様 の良好な成果となりました。ブロッコリーの出荷はL玉20個を1セットにして行うため、省力・低 コスト化を図りながら生育のばらつき無く栽培できることは、非常にメリットを感じています。
佐賀県では令和5年度の結果を受けて、令和6年度についてはさらなる現場への訴求を考え 実際の生産者のほ場を使用して現地実証に取り組んでいます。今回実証をする地区は、ブロッ コリーの栽培面積は大きくはありませんが、省力・低コスト化を図りながら収量が確保きること がわかれば、栽培面積拡大への気運が高まっていくと考えています。
うね内2段局所のイメージ(鋤柄農機 畦内局所施肥機+表層施肥の場合)
鋤柄農機の機械は栽培面にも配慮された期待できる機械です
近年の気候変動の影響で、9月中旬でもまだまだ気温が高い日が続いています。11月の収穫 に向けたブロッコリーの追肥や土寄せ作業は暑さの影響もありより労力を使う作業です。2段局 所施肥の技術は生育の段階に応じて肥料が効いてくる仕組みなので、追肥作業が省略でき、作 業の軽労化を図ることができます。また、生育途中の追肥は、葉や花蕾に肥料が当たり肥料焼 けを起こし、病害虫が発生する場合があるので、追肥を行わない体系は生育上のリスク回避に 繋がります。
昨年はタイショーのグランビスタを使用して検証を行いましたが、土壌条件によって適応した 機械を模索する必要があると考え、令和6年度に関しては同様に2段局所施肥が行える、鋤柄農 機のうね立て同時施肥機を使用して実証調査を行っています。鋤柄農機の機械はうね立て精度 が高く、表層への施肥時に回転して土と肥料を混和する機構があるため、根が肥料焼けしない 工夫がされていて非常に良い仕組みだと感じました。
SL350GS+鋤柄農機の畦内局所施肥機とスー パー台形成形機
うね上部から約10 〜11cmの深さに施用された 緩効性肥料(LPS100)
《参考》 令和5年度 うね立て同時2段局所施肥の実証 実証結果
【実証の概要】
①試験場所:白石分場内ほ場
②栽植様式畝間60cm、株間35cm、1条植え(栽植密度4,762株/10a)
③使用機械:グランビスタ
④試験区の構成:実証区は慣行区の3割減肥(N成分あたり)
令和5年度肥料構成
【調査結果】
①生育はバラツキが少なかった。 実証区で花蕾高が高く、花蕾重量が重かった。
②実証体系により基 肥散布、うね立て、 追肥の作業が35% 省力化された。 10aあたりの作業時 間は実証区で約3時 間削減された。
試験区の花蕾重量
収穫物の状況(2023年11月22日撮影)
作業時間比較
生産者の声
佐賀県佐賀市 田島 剛 様
[経営面積]水稲6ha、麦8.8ha、ブロッコリー1.6a
栽培体系の工夫で ブロッコリーの収益向上を図りたい
ブロッコリーは昨年から栽培を行っています。資材費の高騰や、出荷時期の1月 下旬の単価が非常に安く、利益が少ない状況でした。栽培を続ける場合なにかコス ト削減に繋がる方法が無いか考えていた際に、JAから肥料が3割減らせる技術があ ると提案があり、今回の実証に参画しています。
慣行区のうねを12 ~13cmで立てており、そこに苗を2条定植しますが、実証区で は、15cmのうねに1条ずつ定植を行うのでブロッコリーにとって良い環境で栽培で きると感じました。また実演会の際、実際に使用する肥料を見るといつもより少な いことを実感しました。精度も見た感じは良いので、あとは生育経過を観察してい きたいと思います。
うね立て後KP-202での定植作業を実施
クボタ技術顧問の解説
株式会社クボタ 担い手戦略推進室
技術顧問 森 清文
うね立て同時2段局所施肥作業機による ブロッコリー定植作業について
2024年、夏の猛暑が全く衰えを見せない9月13日、佐賀県システム化研究会実証試験として、鋤柄農機株式会社の「うね立て同時2段局 所施肥」作業機によるブロッコリーうね立て、定植作業を実施しました。前年度、実証したグランビスタによる2段局所施肥うね立て作業機 は、うね立て前に十分な耕うんを実施し、ボビンローラで成形してうねを立てる構造です。今回、実証したスーパー台形形成機は耕うんし ながら、うねを立てる同時作業が可能であることから作業軽減につながることが期待されます。また、対象とする野菜の種類、土壌条件等 に応じて、うね形状の調製、設定が可能になります。今回の実証試験でも砂質土壌で乾燥条件の畑でしたが、順調にうね立てを終え、クボ タ乗用半自動野菜移植機ベジライダー KP202で移植作業まで順調に終了することができました。移植後はほ場が乾燥状態であったことから、苗の活着を促進するため十分にかん水処理を行いました。定植後の生育状況については、やはり高温の影響を受け、生育は遅れ気味で すが、実証試験区については、表層施肥の効果が表れているのか、慣行区に比べ生育はやや旺盛でした。今後、途中経過を観察しながら最 終の収量、品質調査まで注意深く見守っていきたいと思います。
令和6年度作業計画
試験区のほ場と生育状況
メーカー担当者の声
愛知県岡崎市 鋤柄農機株式会社
代表取締役社長 鋤柄 忠良 様
長年培った技術で減肥を実現しながら生育にも良い機械になっています
佐賀県の実証調査では、ロータリ部、スーパー台形成形機、うね内局所施肥部、 表 層 施 肥 部 が 一 体 と な っ た 機 械 を 使 用 し て「 う ね 立 て 同 時 2 段 局 所 施 肥 」技 術 の 実 証を行っています。具体的にはロータリで耕起しながら、うね立てと同時に、うね内 へパイプを使用して筋状に落とす局所施肥を行っています。局所施肥は表層から、 約 1 5 c m の と こ ろ に 施 肥 さ れ る た め 、定 植 後 す ぐ の 苗 に は 肥 料 が 遠 く 、初 期 生 育 が 悪くなります。ですので、上部の繰り出し部から表層に肥料を落とす表層施肥を行 うことで、初期生育をサポートすることで根の活着を良くします。さらに表層施肥部 は土と肥料を撹拌させる機構で、肥料焼け防止に繋がります。
技術を更に定着するべく活動を今後も行っていきます
当社では約20年前より、うね内に肥料を落とす局所施肥の技術を開発しています。近年、資材費高騰の影響による使用肥料削減の 動きや、みどりの食料システム化戦略の策定などの影響により、肥料を約2〜3割削減できるうね内局所施肥の技術が再注目されていま す。技術を更に定着させるべく、実証試験に参画しながら、生産者の皆様に技術の普及を進めていきたいと考えています。
畦内局所施肥機の仕様を説明する鋤柄社長
鋤柄農機
スーパー台形成形機 PH-T313 +畦内局所施肥機(スーパー台形成形機用) KIT-KS(PHT3)+表層混和施肥装置(※現在開発中の試作機)
【撹拌ローラ】
肥料焼けを起こさないように、土と肥料を撹拌 する機構にしています。
【局所施肥を行う施肥パイプ】
施肥パイプのシュート部分の表面は落ちてく る肥料が付着しにくい加工をしています。
【速効性肥料(BB480)】施肥設計:14.2kg/10a
【緩行施肥(LPS100)】施肥設計:32.7kg/10a