
5月21日、山形県戸沢村において、全国農業システム化研究会に係る「ペースト二段施肥田植機実演会」が、山形県最上総合支庁農業技術普及課の主催で行われました。最上地域では、水稲栽培において、春先の低温の影響で、初期生育時の茎数が不足し、目標とする穂数を確保できない状況が続いています。また、近年、プラスチック被覆殻の海洋流出も問題となっていることから、ペースト二段施肥田植機を活用した水稲の高品質・良食味安定生産による経営的効果を実証することになりました。実演会は、50名を超える生産者や農業関係者が参加し、関心の高さがうかがえました。
実証担当者の声

山形県最上総合支庁
産業経済部 農業技術普及課
専門普及指導員
佐々木 一嘉 様
初期生育量が不足しやすい「最上地域」
最上地域は、県内の他地域と比べて、収量や品質の不安定さが課題となっています。その要因として、春先の低温や寡照の影響で、分げつの発生が遅れ、茎数が取れないことが挙げられます。また、担い手経営体の大規模化が進んでおり、労働力不足から適期適作業が困難となって、収量や品質が低下する事例が見られます。そこで、今回の実証ではペースト二段施肥田植機を使用し、田植えと同時に側条と深層にペースト肥料を施用することで、生育初期の分げつを促進し、収量・品質の改善を目指します。また、深層に施肥することで追肥が省略できますので、労働時間の削減効果についても実証します。
プラスチック被覆肥料の代替技術となるペースト二段施肥
実証試験の「慣行区」は実証農場の藤ファーム様の慣行どおりの全層施肥で行い、基肥一発肥料を用いて窒素成分で7.4kg/10a施用します。それに対し「実証区」はペースト二段施肥田植機で、ペースト肥料を施用します。慣行と同じく窒素成分量で7.4kg/10aとなるように設定し、同じ施肥水準で収量や品質の差を調査します。
県内では「つや姫」を始めとした特別栽培米の取組みが広がっていますので、環境負荷の低減につながる取組みは関心が高いと感じています。プラスチック被覆肥料の被膜殻の海洋流出が、近年問題となっていますが、今回のようにペースト肥料を用いれば被膜殻の流出を削減できます。今後は、環境保全の面からも本技術の収益性を評価する必要はあると思います。

クボタアグリサービス仙台事務所がペースト二段施肥田植機について説明

田植機の機首横に付いている肥料タンクにペースト肥料を投入

▲田植作業と同時に、側条と深層にペースト肥料を施用するペースト二段施肥田植機(NW8S-Q2-GS)

実証ほ場の四隅や畔際に残るプラスチック被覆肥料の被膜殻
生産者の声

農業法人 株式会社 藤ファーム
代表取締役 二戸部 康之 様
経営面積
水稲30ha、そば8ha(作業受託40ha)、アスパラガス(ハウス・露地)
初期生育量不足で満足できない収量だった「雪若丸」
水稲は、「つや姫」、「雪若丸」、「はえぬき」の3品種を作付けしています。その中でも特に「雪若丸」は、毎年、移植後の茎数がなかなか増えないという課題がありました。浅水管理や水交換など、分げつを促進する水管理を行っても、穂数が少なく収量は物足りないという結果でした。昨年の夏は今までにない猛暑でしたが、「雪若丸」については他の品種で見られたような白未熟粒の発生がほとんどなく、全量一等米でした。最初に茎数を増やすことができれば、高品質のお米をもっと生産できると思っていたタイミングで、今回の実証の話が来たので、ぜひ引き受けてみようと実証に参加いたしました。ペースト二段施肥にすることで必要な茎数を確保できれば、もっと収量を上げることができると思います。
全層施肥より作業効率が高いペースト二段施肥
ペースト肥料は初期生育がいいと知ってはいましたが、周りで取り組んでいる方もおらず、今まで試す機会がありませんでした。今回の実証を通じて技術を学ぼうと思っています。最初はペースト肥料がきちんとノズルから出るのか心配でしたが、今回、実際にペースト二段施肥田植機の実演を見て、タンクの肥料の量が一定に減っていくのがよくわかって、しっかり施用されていると実感しました。作業時間についても、自走式肥料散布機で施肥するよりもはるかに短いですし、ペースト肥料の補給も、ペーストチャージャーを使えば、全然苦にならないと思います。実証の結果を見て、この技術の導入を検討したいと考えています。もう、期待しかないですね。

実演会でペースト二段施肥田植機の感想を述べる二戸部さん。全層施肥より作業効率が高いと評価している

タンクから肥料の減り具合が確認できるペースト二段施 肥田植機
【参考】最上地域「雪若丸」における初期生育確保のイメージ
山形県最上総合支庁 産業技術普及課
「雪若丸」は偏穂数型品種であり、収量と品質・食味を安定させるには、指標並みの穂数確保が重要です。しかし、最上地域における令和5年産「雪若丸」は、移植後の強風や寡照の影響で他の地域に比べて初期生育量が不足した結果、穂数が指標よりも少なくなり、多くの生産組織で、単収が590kg/10a(県の指標値)に満たない状況でした。
今回の実証では、ペースト二段施肥の上段の側条施肥で分げつを促すとともに、適切な水管理によって、初期の茎数を指標値に近づけ、必要な穂数を確保して、収量・品質・食味の安定をねらいます。

クボタ技術顧問の解説

株式会社クボタ
担い手戦略推進室
技術顧問
瀬野 幸一
プラスチック被覆肥料の代替技術となる「ペースト二段施肥」技術
ペースト二段施肥は、土中に施肥するため田面水への肥料流亡を抑制する効果や粒状肥料に比べ窒素の利用率が高いとされております。ペースト肥料は、以前から寒冷地や中山間地での初期生育の確保に利用されてきましたが、今回のペースト二段施肥田植機による実証は、下層にも施肥することで生育後半まで肥料を効かせ、収量向上を目指しながら追肥作業が省けるメリットがあります。また、使用苗は、クボタの「密播」技術も組み合わせており、さらなる軽労化にもつながると思っております。ペースト肥料は液状なので、雨天時の田植作業にも対応しやすく計画的に田植作業を進めることが可能です。
クボタでは、ペースト施肥仕様田植機及びペースト二段施肥仕様田植機が昨年8月に環境負荷低減に貢献すると認められ、新たに「みどり投資促進税制」の対象機械となりました。被覆肥料から出るプラスチック殻の使用量低減や化学肥料の使用量低減により、環境と調和の取れた食料供給システムの構築に貢献できればと考えております。
クボタからのご提案

クボタアグリサービス株式会社
仙台事務所
横田 俊彦
クボタペースト二段施肥田植機の特長
苗の移植と同時に、ペースト状の肥料を、苗の側条と深層の両方に施肥することができる田植機です。田植機の植付フレームと施肥用のノズルが連動しているので、施肥の位置や深さが安定し、高精度に施肥を行うことができるため、慣行の全層施肥*と比較し、化学肥料を10~30%削減しつつ同等の収量を得ることができます。
*肥料をほ場に施肥をした後に耕耘し、土中に肥料を混ぜ込む方法

クボタペースト二段施肥田植機NW8S-Q2-GS

❶施肥深さ一定ノズル
植え付けフレームとノズルが連動しているので、施肥深さが安定します。また、後ダレも少なく、施肥ムラを抑制します

❷スクリュータンク式ペーストシステム
●攪拌装置付大容量タンク
[8条/100L]・ [6条/72L]

●電動モーターで攪拌がカンタン
タンク内の攪拌装置によって、ペーストの沈殿を抑えられます。
ボタンを押すだけで、肥料と薬剤(殺虫・殺菌)の攪拌が行なえ、
精度も向上します。

➌フロントポンプ
タンクとポンプの間にエアがたまらない構造なので、エア抜きが不要。ムラなく肥料散布を行えます。

➍肥料の流れを可視化
肥料の通り道である管は中身が見える素材を採用し、肥料の流れを目視できアクシデントを回避できて安心です。

■ 施肥深度
施肥量に合わせて、色々なパターンで施肥深度を変更できることが、ペースト施肥田植機の特長です。
側条(上段ノズル)で、2、4、6㎝、深層(下段ノズル)で8、12、16㎝から選択し、深度を変えることで、肥効の時期を調節することができます。
◆ココがポイント!
二段施肥では、下層の施肥深さに合わせて作土深を確保することが重要です。耕うん深さが施肥位置
よりも浅いと、施肥ノズルが硬盤層に当たり植付部が上がってしまうおそれがあります