
熊本県では自動運転機能を活かした効率化作業体系の実装を目指し、2023年より生産者、JA熊本経済連、クボタと共に自動運転田植機を活用した実証を行っています。その一環として、6月14日~15日の2日間、熊本県大津町にあるネットワーク大津のほ場で、アグリロボ田植機NW8SA(無人仕様)を2台活用した同時作業が行われました。
実証担当者の声

熊本県農林水産部生産経営局 農産園芸課 水田総合推進班
主任技師 石田 翔吾様
県内のすべての広域農場(※)でスマート農業技術取組を目指しています
少子高齢化が加速する中で、担い手に農地が集約することが予測され、限られた人員で規模拡大を図るにはスマート農業は不可欠だと考えています。また生産者のスマート農業への関心も高まっており、熊本県でも農業用ドローンや営農管理システムなどの導入が増えてきています。県としては県内のすべての広域農場において、何かしらのスマート農業技術への取組を推進しています。
(※)広域農場:複数集落にまたがる集落営農組織を法人化したもの

隣接したほ場でのアグリロボ田植機(無人仕様)2台使用時の検証

1人1台でアグリロボ田植機(無人仕様)の苗補給を行うオペレータ
自動運転田植機による省力化で得られる利益を明らかにすることが目的です
自動運転機能が付いた田植機の省力効果があることはわかっていますが、現場での普及を進めるには、省力化によって得られる利益を明らかにする必要があります。
熊本県では「人員削減効果を最大限に利用した効率化作業体系の確立」を図るため、今年JA熊本経済連と生産者、クボタと共に無人の自動運転田植機2台と作業者2名による田植え作業の実証実験等を行っています。実証農場として県内の広域農場に参画してもらうことで、スマート農機を活用した経営効果を検証していく考えです。

代かきの状況を確認しながら実証ほ場を選定をする関係者
非熟練者に無人の自動運転田植機を任せることで熟練者はより技量が必要な作業に専念できます
当初、隣接したほ場において無人の自動運転田植機を2台走らせながら、2名のオペレータがお互い協力して田植機の監視と苗補給を行う体制を狙いました。しかし実際には1人が1台を監視、苗補給をするという形で作業が進みました。オペレータを担当した方にお伺いすると、まだ無人の自動運転田植機に慣れていないため苗の植え付け状況確認をしなければならず、自分が担当する田植機1台しか苗補給ができないという意見がありました。実証では自動運転田植機による「無人機2台」「有人機1台+無人機1台」等様々なパターンでの試験を行いました。今回の実証を通じて、将来的に自動運転田植機の監視や補助作業は経験の浅い補助員の方が担当し、本来のオペレータは技量が必要な代かき等に専念する使用方法もあるのかなと感じました。


有人機1台+無人機1台の場合(図1④-1実証ほ)

有人機1台+無人機1台の場合は2名体制で苗継ぎが行えた
常に生産者に寄り添い、アドバイスを行っていきます
県内でも離農者が増加していく中で、農地をどう維持するかを考えた時に、大きな担い手組織に頼らざるを得ない部分はどうしても出てきます。そういった担い手組織が現場で困っていることなどがあれば、実証で培った経験等を活用しながらスマート農業に限らず、栽培面なども積極的にアドバイスを行っていきたいと思います。
生産者の声

熊本県菊池郡大津町 ネットワーク大津株式会社
経営部部長代理兼企画課長 益田 友輝様(写真左から3人目)
[経営内容]
経営規模: 330.0ha 本社経営規模:15.3ha
(主食用米 1.5ha、飼料米 90.4ha、WCS 64.0ha、大豆 108.2ha、麦 236.2ha)
春作業が競合する時期に、1人でも少ない人数で作業を行いたい
自動運転田植機を県内でも普及させていきたいという県からのお話に賛同し、弊社にとってもメリットを感じたため実証に参画しています。
5月から7月までは麦刈りや水稲に関わる春作業が競合します。この忙しい時期に、アグリロボ田植機(無人仕様)を活用することで、本来2人必要な作業を1人で行えるのであれば、生産性が上がると考えています。

実証で使用している2台のアグリロボ田植機NW8SA(無人仕様)

経営部 松岡 傑 様
集中して作業を行わないので疲労度が軽減できます
農繁期になると毎日忙しい作業が連続し、1日が終わる頃には疲労感がどっと襲ってきます。今回、アグリロボ田植機(無人仕様)を初めて操作しましたが、ストレスもなく仕上がりが綺麗で、技術の進歩にとても感動しました。操作も簡単で、何回か行っているうちに効率的に作業が行える方法が見えてくるなど、最先端の技術を使わせてもらってとても楽しかったですね。

外周走行後ルートマップを作成する松岡様
経験の中で効率的なやり方を考えていきたいです
今回の実証では、2台のアグリロボ田植機(無人仕様)を1人1台ずつ監視しながら、タイミングが合えば1台の苗補給を2人でする想定で作業を行いましたが、苗が少し徒長気味だったことが原因で、植え付け時に掻き取りが上手くいかないなどのトラブルが各田植機で生じました。そのため、自分が見ている田植機の苗補給で手一杯になり、少し大変でした。慣れてくれば2台2名体制でも可能かなとは思いますが、もう1名補助員がいれば良いと感じました。運転をしなくても良いので、疲労度が軽減できる点は良かったです。

経営部 國武 誠司 様
変形田でのメリットを大いに感じます
実証試験をする前に、中山間地の変形ほ場でもアグリロボ田植機(無人仕様)を活用しました。形の悪いほ場は神経を集中して移植作業を行うのでとても疲れます。その点、アグリロボ田植機だと、マッピングさえしてしまえば、AIが最適なルートを考えて植え付けを行ってくれるので、個人的には変形ほ場での活用に魅力を感じます。また、弊社ではほ場1筆につき苗の枚数が決まっているのですが、アグリロボ田植機を使用するとロスが少なく、苗が少し余りました。今後はほ場1筆あたりの苗箱の削減など、コスト低減にも貢献すると思います。
非熟練者でも田植え作業ができるので、計画的に作業が進められます
受託業務が多い時はあちこちに田植えに行かなければならない場面があり、本社のオペレータだけでは人手が足りない時があります。また弊社は育苗を外部に委託しているので、できるだけ計画的に作業を行いたいのですが、なかなかスケジュールどおりに田植えが進まないことが長年の課題です。アグリロボ田植機(無人仕様)は使用者訓練さえ受けてもらえれば、補助員さんでも操作が行えるので、それにより手が空いたオペレータを別の作業に回すことができます。オペレータが臨機応変に対応することができるようになれば、今よりも早く作業を終えられる可能性が高くなります。
この先、私達の法人に若い方をどうやって取り込むか考えたとき、スマート農機のような楽でかっこいい機械を取り入れることは「農業はきつい仕事だけじゃないよ」というアピールになると思います。単純作業はスマート農機に任せて、創造的な部分は人が担う農業ができれば良いですね。

あぜ際が曲ったほ場でも匠植えが最適ルートを作成し自動で被せの少ない植え付けを行う

外周の作業は乗車して行う。作業が手放しでも行えるため、ゆったりと背伸びをする國武さん
クボタ技術顧問の解説

株式会社クボタ アグリソリューション推進部
技術顧問 金森 伸彦
アグリロボ田植機2台の導入効果の検証を基に、経営に合わせた使い方をご提案します
国が行ったスマート農業加速化実証プロジェクトにおいて、田植機の有人作業と無人作業の組み合わせによる成果は出ていましたが、無人の自動運転田植機2台を組み合わせての実証成果はなかったので、熊本県の当時の担当者からぜひやってみたいという相談を受けまして、今年実証に取り組んでいます。
クボタでは、アグリロボ田植機(無人仕様)を2台用意するだけではなく、無人の田植機を使っていただくための「使用者訓練」を実施しており、ネットワーク大津のオペレータに操作を十分に習熟してもらったうえで実証に取り組んでいただいております。
アグリロボ田植機(無人仕様)は、隣接したほ場であれば、1人で1台を監視しながら2人1組で苗補給を行う2台同時作業ができるので、少ない人数で倍の面積がこなせるメリットがあると考えています。今回の実証では有人作業と無人作業を組み合わせた様々なパターンを想定して検証を行っていますので、結果を基に経営内容に合わせたご提案ができると考えています。

ネットワーク大津のオペレータに向けた使用者訓練
高精度な田植え作業は肥料や苗の無駄が削減できます
従来のGS田植機は、D-GNSSという補正情報を利用しており、時々人が補正を行わないといけませんでした。アグリロボ田植機はRTKやVRS等の精度の高い補正情報でリアルタイムに位置情報を把握するため、誤差±2cm〜3cmの精度で自動運転が可能です。植え付けの重複もほとんどなく、通常の田植機やGS田植機との精度の差はオペレータも実感していると思います。
実証前に中山間地の不整形のほ場の移植をアグリロボ田植機(無人仕様)で行いました。普通の田植機では、最終枕地を回るときには被せながら植え付けをおこないますが、アグリロボ田植機を使うと自動で2条ずつタイミングをずらしながら植え付けを行う「匠植え」の効果によって、曲線部分の被せを最小限に抑えることができました。これによって、肥料や苗の無駄を削減する効果も期待できます。