
4月17日・18日に、青森県六戸町の川村青果様のほ場で、クボタたまねぎ直播機の実演が行われました。クボタたまねぎ直播機は、農研機構特許「うね上溝底播種+リン酸種子直下施肥技術」を利用した直播機です。従来の平うね直播栽培に比べて、出芽や初期生育の促進、収量の向上が期待できます。今回は、クボタとして初めて取り組む春まきたまねぎの直播栽培をレポートするとともに、独自の栽培技術でたまねぎ直播栽培に取り組んでおられる有限会社川村青果様と東北地域でのたまねぎ産地化プロジェクトに挑む双日農業株式会社様の声をお届けします。
生産者の声

青森県上北郡六戸町
有限会社川村青果 営業部長 川村 毅彦 様
栽培面積70ha
だいこん10ha、にんじん30ha、長いも5ha、ごぼう10ha、ばれいしょ8ha、たまねぎ7ha
生産委託60ha
だいこん50ha、長いも5ha、ごぼう5ha
たまねぎ未開の地で念願のたまねぎ栽培に挑戦
たまねぎ栽培は2018年から試験栽培を始めて今年で6年目になります。北海道での大学時代にアルバイトでたまねぎ栽培の経験をして以来、いつかはたまねぎ栽培をやってみたいとの思いがありました。実は、青森県はたまねぎの生産量は全国でも最下位レベルなんです。この地域ではにんにく栽培が盛んですから、取り組むなら単価が高いにんにく栽培にとの流れになったことが一番の理由だと思います。私はにんにくが上手く育つ環境下なら、きっとたまねぎも同じユリ科なので大きくなると考えていました。それにたまねぎは、量販店でもすごく売れている野菜です。生産者でも青果会社でも売れる野菜を作らないといけないですから、たまねぎなら消費者に必ず届く野菜だと思って導入に踏み切りました。

播種状況を確認する川村様。拡大路線は取らず面積を集約して管理や販売体制を見直すことで品質を高めていきたいと話す

他の野菜機械の汎用利用ができる直播栽培を導入
たまねぎ栽培は、出来る限り保有機を代用して取り組むと決めていたので、移植ではなく直播栽培で始めました。播種機は、にんじんで使用しているクリーンシーダ(アグリテクノサーチ)を代用して、たまねぎ仕様に少し改良を加えたり、ほ場で播種ロールを交換するなどしながら活用しています。栽培については、最初のうちは出芽や雑草で苦労しましたね。2haくらい除草剤で失敗したこともありましたが、その失敗を糧に上手くできたほ場をサンプルにして、手探りで適切な管理を見つけてきました。今では、秋まき3.5ha、春まき3.5haで合わせて7ha作付けしています。今回のクボタたまねぎ直播機は、特に春まきたまねぎの課題である出芽率と収量の向上につながればと考えています。
自分が求めていた機能が付いている!クボタたまねぎ直播機
クボタたまねぎ直播機は、2021年7月に発売された当初から注目していました。自分が求めていた機能がすでに備わっているという感じです。後ろの鎮圧輪に付いている凹凸によって播種したときにできる空気穴や、うね立て+溝底播種によって、大雨での湿害回避や乾燥でひび割れするクラスト防止にもつながりそうですし、それで出芽率も上がると思ったので、いい機械だなと見てすぐにわかりました。リン酸を種子直下に施用できる技術については、たまねぎを始めたときに、他の野菜栽培関係でお世話になっている先生が、「たまねぎは種子の下にリン酸を入れると大きくなるよ」とよく話されていました。その時は、ただ漠然と聞いていただけであまり気にかけていなかったのですが、今回、この直播機で実証できるのですごく期待しています。

逆転ロータリ、成形機、施肥機、播種機等の複数の作業機が一体となっているクボタたまねぎ直播機(オプションで薬剤散布装置もあり)

逆転ロータリで表層に細かい土壌の粒子を集めることで出芽率を高める

種子の直下にリン酸を施用することで初期生育を促進

ベルト式の播種機を採用しているので播種状況が肉眼でも確認できる
実証関係者の声

岩手県盛岡市
双日農業株式会社
取締役補佐 吉川 保 様
東北地域でたまねぎの産地化プロジェクトを推進
私たちは、10年前に施設園芸による農業生産事業を始めて以来、国内の青果流通・販売事業に携わっています。この度、東北や日本各地の協力生産者と一緒に、基本野菜であるたまねぎ等の露地栽培に挑戦して、農業を主体とした地方創生事業を大きな柱に育てていこうとしています。たまねぎは最も輸入量が多い野菜だと言われている中で、産地を作ることで国内自給率を高めることに貢献することも大きな目的です。東北地域でのたまねぎ栽培は、収穫時期でみると秋まきが6月中旬から7月中旬頃、春まきが8月中旬から9月中旬頃となるため、端境期に輸入に頼らず、東北産たまねぎを流通させていく役割を担っていきたいと考えています。

東北地域での産地化による国産たまねぎの周年供給を目指す双日農業の吉川様(写真左端)
先駆的に直播栽培に取り組む川村青果様と連携
川村青果様とは今年1月に研修会で初めて名刺交換させて頂きご縁を得ました。比較的温暖な南東北地域では研究が進んでいる直播栽培を、北東北地域において他に先駆けてご研究・ご推進なされていることを知り、同技術の側面支援ならびに普及に向けて連携させて頂いています。
省力・軽労化の実現に期待するクボタたまねぎ直播機
たまねぎ栽培は、苗を作ってほ場に定植するのが一般的ですが、育苗から定植までの作業は、非常に労働力がかかる部分ですので、これがクボタたまねぎ直播機で省力化できます。それでいて同等の収量が実現できるのであれば、本当に素晴らしい機械だと思っています。特に東北における春まきは、冬場の積雪期に、ハウスに入って寒さに耐えながらの育苗作業となります。この作業が簡素化されるだけでも、生産者の方の負担がかなり減りますので、非常に魅力的だと思っています。

25a区画の播種作業が終了したクボタたまねぎ直播機が合流し、35a区画を2台同時作業で行った

高うねにより多湿を回避し、溝により低温、高温、乾燥を回避することで安定した栽培が可能に(うね幅165cm) ※うね幅を広げたのは不織布をべたがけし、土で押さえるため

播種溝の深さは約5~6cm

25a区画のほ場は、株間10㎝、35a区画のほ場は12㎝と試験的に2種類の株間を設定して播種
クボタの解説
春まき栽培の課題解決に挑戦するクボタたまねぎ直播機

株式会社クボタ
アグリソリューション推進部
技術顧問 菊池 昌彦
自動操舵システムの活用で高精度なうね立て・播種作業が可能になります
クボタたまねぎ直播機を使用して春まきのたまねぎ栽培を行うのはクボタとしても初めてです。川村青果様からは、保有する播種機を使って春に播種したたまねぎは、経験上、出芽や収量が不安定という課題があり、クボタの直播機を使えば安定するのではとの期待感を込めてリクエストがありました。そこで私たちも一緒に知恵を出し合いながら良い結果を目指して実証に取り組んでいます。なお、今回は自動操舵システムを装着したトラクタで播種作業を行いました。このシステムを活用するメリットは大きく、手離しでも自動で真っすぐにうねを立てて播種することができ、しかもうね幅も精度よく揃います。オペレータの軽労化につながるのはもちろんですが、後工程の不織布展張・巻取り、中耕や防除の管理作業が格段に容易となり、生育の安定につながると期待しています。

自動操舵システムを活用し真っ直ぐなうねを成形しながら播種

■春まきたまねぎ栽培の留意点
①春まきは秋まきと異なり、抽台の心配がないので、播種適温になったらすぐ播種します。(青森は4月中旬頃)
②品種は早生タイプだと生育期間が短いので収量が低くなります。このため、晩生種を選択した方が良いでしょう。晩生種は収穫期が高温期となり、腐敗しやすいので注意が必要です。
③腐敗防止のため追肥は行いません。マルチも使用しません。
④タネバエ等初期の虫害防止のため殺虫剤(ダイアジノン粒剤5等)は播種時に施用します。生育期の害虫はアザミウマに注意。
⑤高温多湿になるので病害にも注意が必要です。
⑥除草は登録除草剤の活用と機械除草も必要です。
⑦栽培期間が短いので、出芽の遅れが収量に大きく影響します(春まきは、まき直しはほとんど不可能)。播種以降低温が続くようなら、不織布などの対策も必要です。
⑧排水対策ができていないとほ場が乾かず、作業が遅れ、生育期間を確保できなくなりますので、前年に排水対策を行うことも重要です。

虫害防止のため ダイアジノン粒剤5を施用

ダイアジノン粒剤5
紹介動画