緑肥による化学肥料削減に貢献する汎用播種機 お気に入りに追加
ブロッコリー栽培における排水対策と緑肥活用の実証
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4月13日、島根県邑南町で令和5年度の全国農業システム化研究会の現地実証調査の一環として、緑肥(ヘアリーベッチ)の播種作業が行われました。水田を利用したブロッコリー栽培における排水対策と緑肥活用をテーマに試験が実施されているこの実証は、2年目を迎えた今年、津和野町ほ場に加えて、中山間地域への普及を見据えて邑南町でも実証ほ場を設置。化学肥料の使用量削減を目的に緑肥の肥効について実証します。今回のレポートでは、実証に参画する皆様の声を中心に、野菜と緑肥に汎用利用できる播種機についてもご紹介します。

目次

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実証担当者の声

島根県農業技術センター 
水田園芸技術普及課
主任農業普及員 佐々木 真一郎 様

緑肥による排水性の改善と化学肥料の削減を検証

昨年度、津和野地区でヘアリーベッチを栽培することで透水性の改善や、肥料効果によって生育が向上する可能性を確認しました。今年度、この技術を県内の中山間地域に普及していくことが目的です。また、昨今、肥料代が高騰していて農家の経営を圧迫しています。さらに「みどりの食料システム戦略」では、化学肥料の使用量削減もテーマのひとつとなっています。そこで、今年から新たに行う邑南地区での実証では、緑肥と有機質肥料の活用によって化学肥料の使用量削減を実証することとしています。

4月13日に島根県邑南町で行われた実証試験。生産者、JAしまね、島根県農業技術センターの関係者が集まり実証を視察

効果的な輪作が期待できるクリーンシーダ

ヘアリーベッチは播種後の覆土・鎮圧が重要で、苗立ちに影響します。昨年の実証では、ヘアリーベッチを散播しましたが、苗立ちが悪く、初期の発芽率の向上が課題となっていました。今回使用した播種機は、作業精度がよく、しっかりと播種・覆土・鎮圧ができたので、散播するよりも苗立ちがよくなることを期待しています。また、播種ロールを交換するだけで野菜と緑肥に汎用利用できることは大きなメリットだと思います。例えば本県でもにんじんの栽培に今回のような播種機を使用していますが、これを汎用利用することで、エンバクが播種できます。エンバクのいくつかの品種にはにんじんを生産する上で問題となる線虫の抑制効果が知られていますので、効果的な輪作が可能となると考えられます。

クリーンシーダによる播種作業。ヘアリーベッチは播種量を10a当たり3.2kgに設定

ヘアリーベッチ(品種:藤えもん)に増収目的で根粒菌を混ぜて使用

播種ロールを交換することで野菜と緑肥に汎用利用できるクリーンシーダの構造を確認する実証関係者

ヘアリーベッチには播種ロール穴数12穴、株間6㎝、条間23㎝ の設定から「Q-12」型の播種ロールが使用された

低コストかつ持続的な生産体系の確立を目指す

島根県は水稲だけでなく、野菜の有機栽培の取り組みも推進しています。緑肥栽培による土壌改良や肥料的効果、連作障害の回避等は、有機栽培にも適用可能な技術として注目しており、今後現場で実証していくべき内容だと考えています。緑肥や地域内で調達可能な有機質肥料の活用によって、低コストかつ持続的な生産体系を実証し、県内各地に普及していきたいと考えています。津和野と邑南での実証はその第一歩であり、非常に重要です。

生産者の声

島根県邑南町
農事組合法人いいとも
代表理事 住田 孝重様
栽培面積
水稲:3.2ha、
露地野菜:1ha(ほうれんそう、ブロッコリー、広島菜)

緑肥を活用した「石見高原ハーブ米」に早くから取り組む法人

高齢化が進み、農地の維持が難しくなってきたことから、みんなで力を合わせて集落の農地を守っていこうと2010年に立ち上げたのが農事組合法人いいともです。以前はこの集落にも16軒の農家がいましたが、今は半分の8軒に減ってしまいました。私たちは、地域農業を活性化するためにJAしまねと一緒に、様々な新しい取り組みにも挑戦しています。例えば、水稲は、ハーブの一種であるレッドクローバーやクリムゾンクローバーを田植え前の緑肥としてすき込み、本田で化学肥料を使わない「石見高原ハーブ米」を栽培して、環境に優しく、安全なお米ということで付加価値を高めています。

クリムゾンクローバーを緑肥として栽培しているほ場を説明する住田様

いいともでは3.2haの水稲(コシヒカリ)は石見高原ハーブ米として全量出荷している

ブロッコリー栽培の根こぶ病対策にも期待できる緑肥の実証

ブロッコリーについては、JAしまねからの提案があって、邑南町でもブロッコリーを産地化して、島根県全体で盛り上げようと頑張っているところです。平田地区は11月頃から出荷ですが、ここでは1か月前の10月には出荷できます。ブロッコリーは島根県の推進6品目のひとつなので水田活用の直接支払交付金も支援していただいています。今回の実証は、ブロッコリーにも緑肥を導入することによって化学肥料を削減して、環境にも経営にも優しい農業を目指していく試験だと聞いて協力しました。別ほ場に導入したヘイオーツでは、うちで問題になっている根こぶ病を抑えることもできるのではないかと考えています。良い結果が出れば、ブロッコリーもハーブ米のように付加価値を付けて展開したいですね。うちでも今、若い人がアルバイトで来てくれていますが、農業で安定した収入が得られれば続けてくれると思うんです。若い人たちのためにも農業を魅力ある仕事に変えていきたいと思っています。

法人の所有するほ場での播種作業を見守る住田様

播種作業終了後に今後の実証スケジュールについて佐々木様と打合せ

関係団体の声

JAしまね
島根おおち地区本部
営農部 営農企画課 益田 佑一 様

高冷地の利点を活かしブロッコリーのリレー栽培を目指す

JAしまね島根おおち地区本部の管内の農作物は、少量多品目の生産が多く、白ねぎ、なす、ミニトマト、ピーマン、広島菜、ブロッコリーなどが主に栽培されています。中でも白ねぎは島根県でも一番生産量が多い作物です。ブロッコリーは中山間地である管内で試験的に取り組んで4年くらいになります。実はこの地域では、広島菜を、秋作だけでも16haほど栽培していましたが、コロナ禍の影響で減産となり、広島菜に代わる品目としてブロッコリーを提案しています。島根県では、出雲市平田地区で早くからブロッコリーの生産に取り組み、特産品として「かあちゃんブロッコリー」の愛称で親しまれています。そこで、平田地区の出荷規格に倣って栽培し、山間部の高冷地の利点を生かして平田地区より早い時期に出荷することで、島根県産のブロッコリー前半戦をこの地区が担う作戦です。(農)いいともさんは、出荷先による広島菜の減産影響は受けていませんが、JAの提案に賛同いただき、収益力のある新たな作物としてブロッコリーに取り組まれています。

農家の皆さんのやる気に応えて、攻めの農業を提案

今回のブロッコリー栽培における緑肥による化学肥料削減の実証については、島根県農業技術センターの佐々木さんから話がありました。肥料価格が高騰する中で、JAとしても緑肥によって有機物を供給することで肥料代や生産コストを下げたいという考えもありますので、昨冬の検討会では、有機質肥料を取り入れた施肥設計等も提案しました。実証農家である(農)いいともさんは、緑肥を活用した「石見高原ハーブ米」に取り組んでいることから、理解も得られやすいのではと品目提案を行い、試験にご協力いただきました。この地域の課題は後継者問題と省力化です。いかに少ない人数で作業ができるか、どうやって農地を守るかだと思います。そういう環境の中でも攻めていこうと思っています。農家の皆さんはやる気があるので、その気持ちに応えて、各農家にマッチングする品目提案をしっかり行っていきたいと考えています。

JAしまねから多くの営農担当者が播種作業に参加

生産者のやる気に負けない攻めの提案を行う益田様

播種機メーカーの声

野菜と緑肥の汎用利用が可能なクリーンシーダAPH70

アグリテクノサーチ株式会社
営業部 浦野 寛也 様

Q1.クリーンシーダの特長は?

溝切り→点播→覆土→鎮圧を一度に行えます。播種ロールを交換することで、今回播種した「ヘアリーベッチ」、「ヘイオーツ」といった緑肥をはじめ、様々な野菜の種子を播種(点播)することができます。

クリーンシーダでの播種作業

Q2.播種ロールとは?

播種ロールは30種類以上の穴形状(大きさ)があり、播種ロール1周あたりの穴数は11パターンあります。これにより多くの品目を品目ごとの体系に合わせた(一カ所あたりの粒数・株間)播種作業に対応できます。品目(ニーズ)に適応した播種ロールを確実に選定することが高精度播種には重要です。

播種ロールは簡単に交換できます

ヘイオーツに適応する播種ロール(型式:AA-12)

Q3.より高精度な播種作業を行う秘訣は?

GSトラクタとマッチングすれば、直進キープできることで作業機の微調整に注力することが可能となり高精度な播種作業が可能になります。

直進アシスト機能(GS機能)付トラクタ SL600HGS

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