熊本県球磨郡あさぎり町にある熊本県農業研究センター球磨農業研究所において、6月19日、今秋発売となる自動運転機能を搭載した「アグリロボ田植機NW8SA(有人仕様)」を使用した密播苗移植の実演会が行われました。
実演会は座学から始まり、球磨地域で普及を進めている密播苗移植栽培(以下密播)や乾田直播栽培(以下乾直)の取組事例の説明やクボタスマート農業に対する取組みを紹介しました。その後、ほ場に移動し、NW8SAによる自動運転での密播移植作業が行われました。当日は地元の農業高校生等も見学に訪れ、次世代を担う若手農業者にスマート農業をアピールする絶好の機会となりました。
スマート農業にかかる水稲密播栽培(田植え)等の実演会
●開会の挨拶
・くま農業活性化協議会局長 事務局長 米森敬悟様
・熊本県農林水産部生産経営局 農業技術課 主幹 堀 孝宏様
●取組事例紹介
熊本県球磨農業普及・振興課 石田 翔吾様
・球磨地域における低コスト稲作試験の取組み ①乾田直播②密播
●クボタスマート農業取組紹介
㈱クボタ技術顧問 金森伸彦
●クボタスマート農業取組紹介 ㈱クボタ技術顧問 金森伸彦
担当者の声
地域への省力・低コスト化技術の普及と担い手の確保を目指して
農業高校との連携で若い方へスマート農業をアピール
球磨地域は高齢化が非常に深刻で担い手も少ない。若い方や熟練のオペレータが特に少ない状況で、春先には麦やタバコ収穫から続く田植え作業に追われ、非常に慌ただしくされております。そういった中で負担軽減のため省力・低コスト技術として、密播と乾直を重点的にPRしようと取組んでいます。今回、地域の生産者に向け密播移植作業の実演会を開催するにあたり、クボタさんの協力を得て自動運転田植機NW8SAでの作業と、スマート農業の紹介を併せて行いました。
実演会には地元の農業高校生にも参加していただきました。若い方に「かっこいい農業」を見せていくことは、後継者や担い手を確保する面で非常に重要だと感じています。学生のうちから、農業に興味を持ってもらい「農業は楽しい」と感じてもらうため、学校との連携も日々進めています。
密播や乾直は、最近生まれた技術ではなく、昔から実証を重ねてきた技術ですが、地域に根づきませんでした。そこには理由があると考え、原因をしっかりと突き詰めていきたい。低コスト技術や地域にあったスマート農業を追求し、積極的に生産者に情報提供を図っていきます。
参加者の声
経営の効率化や、人材の育成のためスマート農業を活用していきたい
今回の実演会には密播技術の再確認と、自動運転田植機が実際に動いているところを見たいと思い参加しました。特にクボタのスマート農業の取組みが印象に残りましたね。経営のスマート化を目指す中で、今日見た自動運転田植機NW8SAは経営のスマート化に十分貢献してくれると思います。実際の田植作業では直進だけではなく、苗の状態や、周辺の状況、天候すら見ています。作業中は色々な事に気を使っていると負担はとても大きくて、1日2ha作業をした日には疲労困憊です。NW8SAならある程度は自動で行ってくれるため、作業が楽になることは大きなメリットですね。「素人でもできる」という点も、熟練のオペレータを探して雇わなくてすみ、非熟練者がある程度の仕事をしてくれることは、経営の中でとても有利に働きます。また、密播を数年前から取り組んでいて、自身で育苗をする中で苗のロス率は重要な課題です。苗箱の削減を目的に取り組んだ密播なので、NW8SAのように設定どおりにロスなく移植してくれれば、苗箱の使用数を計画どおりに行うことができます。本当にありがたい技術です。メーカーさんが研究を重ねて技術を進化させてきたので、次は運用する側がスマート農業をどう活かすか考えていきたいです。
現在は家族経営ですが、今後さらなる規模拡大に対応できるように、法人化を目指しています。担い手が減少している状況で、さらに人材を確保すると同時に人を育てなければいけません。「仕事を見て盗め」というスタンスのままでは若い方は着いてこず、担い手の減少が加速するかもしれません。若い方が楽しんで農業ができるようなシステムを模索する中で、技術研修や、実演会に積極的に参加して色々と学んでいます。農業を普通の職業の一つとして選択してもらえるような、身近で働きやすい仕事環境にしていきたいです。
実演会への参加は最新技術の情報を得られるいい機会です
私の高校には将来就農する人のために設立された「南陵就農塾」という課外活動があり、今日は部活動の一環として実演会に参加しました。家は畜産関係なのですが、この部活に入っていることで、将来農業に関わる者として、他ジャンルである稲作技術を知るいい機会が得られました。
田植機でまっすぐに移植作業を行うことは難しいと感じていましたが、NW8SAなら自動でまっすぐに定植されていてすごいと感じました。また、まっすぐ植えるだけが自動化だと思っていたので、旋回も自動化されていることに驚きました。現在農家の数が減少していて、農家は若い世代にはあまり選ばれない職業です。自分は、農家の数が減っているからこそできることがあると考えているので、学生のうちにしっかりと知識を蓄えて、良い農家になりたいと思います。
クボタ技術顧問の解説
アグリロボ田植機「NW8SA」と密播技術はとても相性が良いです
本日の実演の内容は大きく2つです。1つ目は球磨地域では密播がまだあまり普及していないので、密播を参加者に知ってもらう機会を作る。2つ目は、アグリロボ田植機NW8SA(有人仕様)の自動運転による田植え作業の実演です。また、この2つの技術の相性は非常に良いです。今回の機械は有人仕様なので、オペレータは必要ですが、機能的には無人機と変わりません。最初にほ場外周を1周することで走行ルートを自動計算し、自動運転位置に移動してスタートするだけで、直進、旋回、条合わせまで自動で行います。
苗には一箱の播種量を多くして10a当たりの箱数を減らす「密播苗」を使用しています。自動運転で走行していても、苗の補給は人力で行います。ですので、苗補給の回数を減らすことのできる密播は自動走行の時間が長くなり、アグリロボ田植機の特徴をより活かすことができます。アグリロボ田植機NW8SAを導入される生産者には密播も合わせておすすめしていきたいです。
西南暖地における密播苗育苗
省力・低コスト化技術は、西南暖地でも求められています。密播もその一つで、西南暖地でもさらなる普及拡大が必要な技術だと考えています。密播は播種量を多くするため、苗が密集した状態になって蒸れることがあり、寒冷地と比較すると換気や温度管理に注意するべき点があります。
よくある失敗には、育苗期間を長くし過ぎるケースがあります。「苗の長さが足りない」「日数的にまだ早いのでは?」との不安から育苗期間を長くすると、苗が老化してしまいます。温暖地の密播育苗では、播種してから約10日~14日、1.5~1.8葉で移植可能な苗になるので、これを目安に育苗してください。
PICK UP!
「密播+育苗箱全量施肥」とNW シリーズによる作業で
ロスが少ない移植作業の実現へ
クボタは6月18日に合志市にある熊本県農業研究センターで行われた「密播+育苗箱全量施肥」による省力栽培実証試験に協力しています。育苗箱全量施肥では1箱当たり施肥量と10a当たりの苗箱数で施肥量が決まります。試験では、窒素施肥量が7.2㎏/10aとなるよう、1箱当たり窒素0.9㎏相当の専用肥料(苗箱まかせ)を施肥した密播苗を8箱/10aの設定で植付けました。NWシリーズの株間キープ機能により、ほ場条件に関わらず使用する箱数が一定に保たれ、施肥量を正確に把握することが出来ました。