ソリューションレポート
千葉県|
トマト|
千葉県旭市では、新型コロナウイルスの影響による販売単価の下落や、燃料資材費などの高騰により、施設園芸を営む生産者の所得低下が課題となっています。県は課題解決に向け、令和3〜4年度の全国農業システム化研究会において「環境制御技術導入による施設トマトの収量増加と経営改善」を課題に実証調査を行っています。本調査では、促成栽培トマト栽培において、CO₂(炭酸ガス)施肥機「ダッチジェット」と統合環境制御盤「ハウスナビ・アドバンス」、環境モニタリング装置「アイファーム・クラウド」を使用し①CO₂の施用、②気温の管理(湿度を考慮した換気管理含む)、③かん水と施肥の自動化(慣行区ではCO₂の施用を行わず気温・かん水管理は手動)の3つの項目を重点的に環境制御するなど、トータルで管理を行った結果、導入前より20%超の増収となっています。
生産者の声
統合環境制御による管理で増収の手応えを感じました
バラバラだった管理をハウスナビ・アドバンスにまとめて効率アップを図りました
2019年に発生した台風の被害でハウスが全壊しました。建て替えを機に県からモデル農家としての依頼があり、2021年より実証に参画しています。実証調査参画前から、他社のCO₂施肥機や温度管理システムなどを導入していましたが、手作業での水管理や、複数機械を操作することが大変だったため、温度・湿度・かん水・施肥管理などを一貫して設定できるハウスナビ・アドバンスを導入することにしました。
夜間の管理を任せられるので軽労化に繋がります
トマト栽培は繊細な環境管理が必要です。日中はハウス内で作業ができますが、夜は自分も睡眠を取らないといけないため、一日中ハウスにいるわけにはいきません。ハウスナビ・アドバンスを導入することで、設定をきちんと行っておけば、夜間にも機械が管理をしてくれるので軽労化にも貢献できます。また、こまめな管理によりカビ等の病気が防げたことは大きなメリットですね。
足りないCO₂をダッチジェトが補って生育を促進します
冬場のハウス内は外気が入らないように密閉されています。そのため、外のCO₂濃度400ppmに対して、密閉されたハウス内では植物が二酸化炭素を吸い込むため300ppm〜250ppmにまでCO₂濃度が低下し、光合成量が2〜3割落ち込むと言われています。足りないCO₂をダッチジェットによって補い、生育を促すことで安定した収量を得ることが可能になりました。
実証に参加して増収の効果を実感しました
普段出荷量は、他のハウスと合わせた量しか把握しておらず、実証ハウスでの収量の経年変化が不明でした。実証調査2年目の今年は、普段より手応えを感じており、実際の数値を見て昨年よりも収量の向上が確認できたので、実証に参画して良かったです。成果を受けて他の生産者にもお勧めできると感じています。
実証担当者の声
実証の結果を受け環境制御技術のさらなる導入拡大を促し
産地の維持・発展に繋げていきたいです
省力化と単収増加は産地維持のため地域の課題となっています
海匝地域は豊かな土地資源に加え、温暖な気候と大消費地である首都圏に近い恵まれた立地条件のもと、農業産出額県内第1位の農業地域です。その中で旭市は、野菜・畜産・花卉・米の栽培が盛んで、特に野菜の施設園芸は県下でも最大の産地が形成されています。一方で、近年は野菜単価の低迷と燃料・資材費等の高騰により、経営状況が悪化していることから、省力化と単収増加は産地を維持するために喫緊の課題となっています。
環境制御技術導入の成功モデルを作り、地域へ波及させることが目標です
旭市では一部の生産者において環境制御技術の導入が進んでいますが、技術習得までには至らず、大幅な経営改善にはつながっていない事例もあります。そこで、環境制御技術の導入に意欲があった生産者を地域のモデル農家として育成し、実践事例を地域へ波及させることを目標としました。実証農家として参画している近藤氏は、地域において、促成栽培トマト農家の中心的存在であり、環境制御技術を導入する以前から高い収量を誇っていました。また、ご自身が培った技術を積極的に公開する等、地域全体の農業を盛り上げる意欲もあることから、モデル農家を依頼するに至りました。
2年間の実証で20%を超える増収を得る技術を検証できました
実証では、ハウス内環境や、トマトの生育および収量データを取得することで、当海匝地区で環境制御技術を導入する際の指標の作成も目指しました。
1年目はハウスナビ・アドバンスの設定項目の多さから環境制御機器が思うような挙動を示さない等のトラブルがありました。また、ダッチジェットがほ場面積に対して過剰性能であったことから、CO₂施用のコントロールが難しいなどの課題もありました。
2年目には関係機関との連携の元、使用する設定項目をあえて少なくすることで、機器の制御を容易にし、意図した環境を実現することに成功しました。これによって、当初の目標であった収量の20%増を超える結果につながったことから、今後は複雑な操作技術の習熟によって、更に省力・高単収な栽培につなげることを期待しています。
クボタ技術顧問の解説
施設トマト栽培の実証調査に使用した機械の説明と栽培上の注意点
施設トマト栽培の実証調査において好成績
クボタのソリューションレポートでは、施設園芸関係は初めてです。この度、全国農業システム化研究会の課題「環境制御技術導入による施設トマト収量増加・経営改善の実証」において、実証担当農家の近藤様はじめ千葉県の普及関係職員の皆様の活躍により素晴らしい成果を挙げていますので、紹介しようと思いました。
実証農家の管理方法から見る栽培上の注意点
実証区で供試した機器は、CO₂施肥機ダッチジェットP-100、統合環境制御装置ハウスナビアドバンスAGC-5000NA、環境モニタリング装置アイファーム・クラウドです。制御項目は換気窓、遮光・保温カーテン、暖房、CO₂施用、日射比例式潅水同時施肥で、一方慣行区は担当農家は異なりますが、環境制御は手動管理、かん水はタイマー制御+手動管理で実施しています。
実証1年目の昨年は慣行区の農家及び過去の実証農家より収量が向上し、今年はさらに収量増となっているとのことです。
ここで気になるのは、制御項目をどう設定したら収量向上につながったのか、という点です。近藤様のコメントにあった設定を確認していただければ、参考になると思います。
ただし、注意点もあると思います。それは、①品目、作型、地域が決まっていたら、まずは指導機関やメーカーと相談して環境制御の設定を確認・検討し、最初の基準となる設定を理解して取り組むこと、②生育が強い、弱いの診断ができることがとても重要で、それによって設定をどう変更するかが必要となることー近藤様は「生育が強すぎたら日中温度を上げる、逆に弱すぎたら下げる」、③施設園芸の環境制御機器は各種売り出されているが、やはり自分の品目・規模に見合ったコストを考えて、機器を選択すること、だと近藤様と話していて、そう思いました。
施設園芸の効率化を助けるソリューション提案
クボタでは、CO₂施用機の安価タイプや、かん水の自動化では土壌水分・日射量・天気予報でクラウド上のAIがかん水を判断する「ゼロアグリ」、しおれ検知式自動かん水制御システムの「Hamirus(ハミルス)」も取り扱いがありますので、参考にしてください。
最後に、施設園芸の環境制御は機器のハード面におまかせではなく、生育診断ができる目と生育がどうなったらどう設定を変更すべきかというソフト面の技術も必要なのだと改めて思った次第です。