スマート農業実証プロジェクト 現地レポート
スマート農業加速化実証プロジェクト
埼玉県|
たまねぎ|キャベツ|
関東平野の中心に位置し、大消費地東京から80km圏内の立地を活かし農産物の生産が盛んな埼玉県上里町で注目を集めているのが、㈱関東地区昔がえりの会です。㈱関東地区昔がえりの会は、大手外食企業の加工・業務用野菜の契約栽培を行い、生産から出荷までを一貫して行う農業経営を行っています。同社では、関係機関とコンソーシアムを設立し、令和2年度のスマート農業実証プロジェクトに応募、採択を受けました。年々上昇する生産コストに反して、スマート農業を導入することで、いかに省力・低コスト化し競争社会を生き残っていくかを課題としています。またKSAS導入により経営の見える化、機械化による若手従業員に対する技術継承、農業機械のシェアリングによる機械の稼働率・生産性を上げる多面的な実証に取り組んでいます。
埼玉県 加工・業務用野菜スマート農業実証コンソーシアム概要
実証課題名:
加工・業務用野菜サプライチェーン最適モデル構築を目的とした、キャベツ・たまねぎの機械化栽培技術体系と産地リレーと連動したスマート農機の県間広域シェアリングによる低コスト技術体系の実証
①土づくり〜出荷までの作業について、機械化・自動化オペレーションを徹底し、省力化・生産性向上・低コスト化を実現するための農業技術体系の実証
②加工・業務用野菜の機械作業に適した栽培方法や作業方法を推進し、収量生産性、労働生産性、資材効率をモニタリング・改善する仕組みを構築。機械化による収量低下や品質低下リスクを低減する効率化栽培の農業技術体系の実証
③需要先と連携を強化し、生産・収穫・貯蔵・出荷・物流まで一貫した情報連携(仕様・規格化、適期適量、運送と作業 効率化)によるサプライチェーン全体の効率化・コスト低減の実証
④キャベツ収穫機を県間産地間リレーで広域シェアリングして12カ月稼働するための、機械操業計画調整、事前生育状況モ ニタリング、清掃・メンテナンスの適正化、課金スマート化のモデルを構築することによる、機械コスト低減の技術体系の実証
成果目標
・面積当たりのキャベツ、たまねぎ作業時間 50%削減
・キャベツ、たまねぎの出荷重量当たり生産コスト 20%削減
・面積当たり販売金額 10%増加 2019年度実績比較: たまねぎ
・出荷重量当たり収穫機コスト 30%削減 保有したケースとの比較: キャベツ
スマート農業の活用による人材育成や、
機械化による生産コスト削減を図ります
㈱関東地区昔がえりの会
㈱関東地区昔がえりの会は、キャベツやたまねぎ等の重量野菜を中心に周年栽培を行っており、品目ごとに生産部門を組織しています。敷地内には外食企業のカット野菜工場を併設しており、輸送トラックの積み替え等を省略化することで、流通コスト削減を図っています。また、従業員の平均年齢は33.3歳と若く、就農意欲のある若者を社員として積極的に雇用しており、将来の地域農業を守る担い手を確保・育成することで、農業継承に努めています。
先人の想いと最新技術を組み合わせた経営へ
㈱関東地区昔がえりの会は1999年に醗酵堆肥による特別栽培農産物生産に取り組んでいた30名の専業農家により出荷組合として有限会社を設立。14年前に顧客ニーズに応えるため、生産法人として、株式会社での生産をはじめました。「関東地区昔がえりの会」という社名の由来は、必ずしも昔が全部良いという意味ではなく、土づくりなど先人たちが込めたものづくりに対する想いを継承し、その中に最先端技術を活用した良いものづくりを行っていけたらという想いが込められています。
KSASで農業経営を「見える化」
スマート農業に取り組むきっかけは経営の「見える化」を図ることでした。
かねてより、農業技術を普遍化し後継者にどのように伝えていくかを考え、農業経営システムの開発に率先的に取り組んでいましたが、資金面から技術開発が滞ってしまい理想の形には至りませんでした。4年前にクボタから営農支援システムKSASを紹介してもらい、現在はKSASで従業員の労働時間の管理や作業工程の記録を行っています。具体的には、生産を担当している社員はほ場に出てしまうとタイムカードでは管理ができないため、KSASにより自動で作業時間を記録し適正な賃金の支払いに反映したり、地域の土質や排水性が違うほ場を品目毎に生産履歴を記録し、次年度の生産計画に役立てています。
スマート農業で省力・低コスト化を図る
安価な外国産に対抗するには、いかに生産コストを下げるかが課題です。そこで、以前よりたまねぎ等の機械化を進めてきました。そして、今後鍵となるのがスマート農業の導入だと考え、令和2年度のスマート農業実証プロジェクトに応募し、この度採択されました。
今回の実証では、加工・業務用野菜のサプライチェーン最適モデル構築のため、キャベツやたまねぎ等の露地野菜の生産から出荷に至るまでの機械化一貫体系の構築を目指す予定です。
今まで真っ直ぐなうねを作るには、張り網をし、目印を付けて作業していました。熟練者であれば目印が無くても容易な作業ですが、 経験が浅いとうねが曲がり、後の管理作業に影響がでます。この実証で、 クボタトラクタ SL24 と自動操舵補助システム(トプコン製)を導入することで、経験が浅い者でもうね立てが、簡単に真っ直ぐ作業できるようになり即戦力として現場で作業が行えます。また、熟練者においても楽にできるので作業の負担軽減に繋がります。今後、キャベツ収穫機や自動運転トラクタ MR1000A などの導入も控えている ので、スマート農業を活用した更なる省力化・効率化・低コスト化に期待が高まります。
新規就農者や産地化を目指す会員農家と機械の共同利用を推進
スマート農業実証プロジェクトを進めるに当たり、農業機械のシェアリングも合わせて実証することになりました。実証では、埼玉県から、愛知県、長野県とスマート農機のシェアリングを行う予定で、JA三井リース㈱も、課金制度の構築等に関わってもらっています。
当社では以前から、機械償却のスピードを早め、常に新しい技術で経営を行っていきたいと考え、保有機の会員農家の共同利用を行っています。また、シェアリングを行うことで、独立を考えている社員や、高齢の農業者にとって、農業機械の新規購入は負担が大きく、必要に応じて会社が整備し農業機械の共同利用をすることで地域の農業者には「持たざる経営」を行ってもらうことができます。
今回の実証でシェアリングを行う他県の地域は、今後地域を守っていくために何を産地化にしていくか模索しています。共同利用を行うことで、機械の購入コストを抑え、地域に見合った作物の選定が行えると考えています。今後は、新規で産地化を目指す地域への手助けや、スマート農業を普及させるためにコストパフォーマンスやマニュアルの作成を考えて整理していきたいです。
新しい農を担う人たちを共につくりだす
年々少子高齢化が進み、担い手が減少する中で農業技術の継承が課題になっています。当社で率先して雇用する方は、非農家出身者で将来就農を志す方もいますので、親子継承のような「見て学ぶ」というスタイルでは、技術の習得に時間がかかり、しかも独立時に必要な技術継承ができないため、KSASを活用したマニュアル化やデータ管理、現場での経験が必要です。そのため会社では日々技術革新を行っています。さらに、トラクタや、フォークリフトの運転資格取得を積極的に推奨し、資格が無い者には安全上、運転はさせません。また、これからの農業経営に必要な資質を培うため、中小企業診断士に依頼し研修会を毎月開催しており、農業を志す若者が経営者という観念で農業を捉えて、継続そして発展できる基礎を学んでもらえたらと考えています。
競争社会において生き残っていく会社経営を目指す
人件費が毎年3%ずつ上昇する中で、農産物の価格は10年前と変わりません。そういった状況下では機械化を図り、生産コストを削減しなければ、競争社会において生き残ることができません。今回のようにスマート農業実証プロジェクトを通してさらに綿密な数字を算出し、基礎データを作ることで、さらなる経営発展を見据えています。
スマート農業の導入で農業経営の発展を図りたい
兵庫県の農業大学校を卒業した後、生産法人や農家で研修を行っていましたが、当社には就農を目的に1年9ヶ月前に入社しました。入社後にオランダへ研修に行かせてもらい世界の農業レベルの高さに驚愕しました。海外と比べると日本は機械化体系に遅れを感じます。品質面では優れているのですが、経営していく中でスマート農業を活用したさらなる発展が必要だと感じました。
入社直後新設された、たまねぎ部門に配属されました。たまねぎ栽培の体系を確立する過程に1から関われることはとてもやりがいを感じています。今、会社で一番規模が大きいのはたまねぎ部門です。少人数で作業の効率を図ることで多くの利益が生まれます。たまねぎを生産している方達の指標になるように、今後はさらなる機械化や作業の効率化を図って行きたいと思います。
独立がしやすく、サポートも手厚いのでこの会社に就職しました
農業高校を卒業後、農業大学校を経て、当社に就職しました。入社したときに、複数ある部門から「どの部門がいい?」と尋ねられ、中谷さんと一緒に働きたかったのでたまねぎ部門を選択しました。先輩方にしっかり技術指導してもらえているので、その技術を吸収しながら仕事をしています。生産方法も自分たちの考えを提案し、作り上げていくので、やりがいがあります。
スマート農業実証プロジェクトに参画して、直進キープ機能付トラクタが導入されました。たまねぎの生産が本格化してくれば、使用する回数が増えると思います。スマート農機は経験が浅くても使いやすく、農業が更に発展すると思います。この会社で様々な経験を積んで今後は独立就農を目標にしていければと考えています。
県内農業従事者が安心してスマート農業に取り組める情報を発信します
上里町を中心とした地域は、農業産出額の約6割を野菜が占める産地です。重量野菜の割合が高いので、軽労化のための機械化体系の推進や高齢化に対する支援が必要だと考えています。今後の農業を考えるうえでスマート農業は省力化や生産コストの減少に貢献する重要な対策になります。今回のスマート農業実証プロジェクトには埼玉県として支援しており、県内の農業従事者の皆様や地域の方に、実証プロジェクトに関する活動内容を広く発信していきたいと思います。新しい取組みで期待感が高く、少しでも農業従事者の皆様の不安や課題の解決につながれば良いと考えています。