近年、土壌管理の粗放化・有機物施用量の減少、大型農業機械の踏圧やロータリ耕による作土の表層化・ち密な耕盤の形成によって、水田の土壌悪化が懸念されています。こうした水田で麦・大豆・野菜などを栽培するためには、土づくりと排水対策が欠かせません。水田フル活用のための土づくり・排水対策技術をご紹介いたします。
(この記事は、平成26年6月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.29』を元に構成しています)
1はじめに
攻めの農林水産業の実現に向け、飼料用米、麦、大豆や野菜などの導入による、水田のフル活用が課題です。
しかし、近年、水田では、土壌管理が粗放化し有機物施用量の減少、大型農業機械の踏圧やロータリ耕による作土の浅層化やち密な耕盤の形成などにより土壌の悪化が危惧されています。そのため、水田で麦、大豆や野菜を高品質で多収生産するには、排水対策や土づくりが欠かせないものとなっています。加えて、温暖化などの影響による異常気象で、ゲリラ豪雨と干ばつが繰り返されていることから、作物に適した土壌の水分管理がより一層大切になっています。
2農地の劣化
ち密で硬い耕盤が形成され、作土が10㎝程度に浅くなっている圃場では、排水性が悪化し、根の下方への伸張が妨げられます。このため、作物の根の範囲が狭く、乾燥した日が続くと干ばつになり易く、また、降雨が続くと湿害になり易くなります。
また、有機物の施用量が少ない水田の作土はいったん雨に打たれると土壌構造が壊れてドロドロになり、乾くと作土が密に詰まり、表面には硬い層ができて透水性、通気性が悪化します。このような土壌に、降雨後、作物の種子を播種すると、土壌表面が硬くなっているため、出芽できなくなります。
3土づくりと排水対策
⑴有機物の施用で
作土の排水性・通気性を改善
有機物は、土壌への養分供給や蓄積のほか、団粒構造を作るうえで重要な役割を担っています。団粒構造は、多数の大きな孔隙と小さな孔隙からなり、水はけと水もちの良い土壌を作ります。作土が浅い場合、有機物を加えて、徐々に深く起こしましょう。団粒構造の発達した深い作土の確保によって、湿害にも干ばつにも強いやわらかな土壌に変身します。
⑵豪雨対策には地表排水技術が一番
降った雨の多くは、土壌中への浸入速度が遅いため、地表に溜まります。そのため、ゲリラ豪雨から作物を守るためには、地表からの排水対策が最も重要です。
ち密な耕盤が発達している圃場では、地表の湛水を迅速に排水するため、耕盤よりも深く(20~30㎝)額縁明きょを施工します。排水不良の水田では、10~15m間隔で、圃場内にも施工します。施工された明きょは、落水口に繋ぎます。
うね立て栽培をしている圃場では、うね間と明きょを確実に接続することにより、うね間の湛水を迅速に排除し、湿害から作物を守ります。
さらに、レーザーレベラーによる圃場の傾斜均平は、凸凹を減らし、排水路に向かって1/1000の傾斜を作ることで排水の効果が認められています。
⑶耕盤破砕で根の伸長と排水促進
ち密で硬い耕盤が形成された圃場ではこれを破砕することにより水が下方に流れるようにし、耕盤上やうね間の残水を迅速に排除し、地下水位を低下させて、下層の通気性を改善することが必要です。
サブソイラにより土層を切り裂いてできる亀裂、チゼルや弾丸跡、破砕によってできる亀裂など、大きな隙間が水みちになります。しかし、粘土が多く土壌がやわらかい湿田のような場合、施工後、亀裂が埋まりやすく、排水効果が低下します。そのような圃場では、亀裂にモミガラを入れたモミガラ簡易暗きょが効果的です。
また、長期にわたって大豆、麦や野菜が作付けられる圃場では、2m程度の間隔で密にサブソイラで弾丸暗きょを施工するか、パラソイラーで耕盤を全面破砕することにより排水効果が高まります。
4新しい排水技術の紹介
⑴地下水位制御システム・フォアス
フォアスは、地下水位を制御することによって排水と地下かんがいが同時に行え、水田の高度利用を可能にするシステムです。水分が必要な時に地下水位を上げて管理ができ、しかも、作物にとって過剰な水を排水できるようになっています。そのため、水稲直播栽培、大豆や野菜栽培などに適しており、高品質・多収生産が期待できます。
⑵穿孔暗きょ施工機・カットドレーン カットドレーンは土層をブロック状に切断して動かすことにより、暗きょと同程度(約70㎝)までの任意の深さに約10㎝四方の大きな穴を開ける排水技術です。穴は切断層の下端横に作られます。耕盤上に溜まった水は、幅の広い水みちである切断層を通って四角い穴に流れ排水されます。 施工には、大きなけん引力を発揮できるパワクロが最適です。
5土づくりと排水対策にはパワクロが最適
排水条件の悪い水田でのサブソイラや溝堀機などの施工には、けん引力が大きく、走行安定性に優れたパワクロが適しています。湿田や、水分が比較的多い水田でも、沈み込まず作業ができ、計画的な作業が可能です。パワクロなら凸凹の圃場でも機体の上下動が少ないので、補助暗きょや排水溝は深さを一定に保持しながら、真っ直ぐで安定した、精度の良い施工が可能です。また、パワクロはホイールトラクタに比べ、低踏圧で土にやさしいため、ち密な耕盤の発達や練り返しによる土壌の悪化を防ぎます。
6大規模な担い手こそ土づくりと排水対策が重要
近年、担い手への農地の集積、圃場の大区画化や経営規模の拡大が進んでいます。農地の集積と集約化で労働生産性の向上が図られますが、土地生産性の向上のためには、大規模経営ほど、土づくりと排水対策が必要になります。
経営規模が大きくなるほど圃場の枚数や大区画の圃場が増え、排水条件の悪い圃場では、少しの雨で予定作業が遅れ、作業予定全体が崩れてしまうリスクが高まります。計画的な適期作業を確保するために、基本技術の励行、とりわけ、排水対策が欠かせません。排水対策は、基本技術の中でも最も重要です。備えあれば憂いなしです。