日本農業をけん引する「プロ農業者」の課題解決を総合的に支援する様々な活動に取り組む、特定非営利活動法人 日本プロ農業総合支援機構(J-PAO)。今回は、J-PAOの髙木 勇樹理事長に、日本農業のあるべき姿の実現に向けた取組や、プロ農家に求められることについてお話を伺いました。
(この記事は、平成27年11月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.32』を元に構成しています)
日本プロ農業総合支援機構(J-PAO)は、食品メーカー、商社、税理士、流通業者、金融機関など、農業と共にあり、農業を大切に思う企業や個人によって組織されたNPO法人です。農業を取り巻く様々な経営課題に対応し、「プロ農業者」を支援するために、平成19年2月に立ち上げられました。
「民の力・知恵」を活用して「プロ農業者」をサポート
J-PAOは、創意工夫と努力による経営の自立を実践し、独自の経営感覚で持続する経営を目指すプロ農業の真の担い手を「プロ農業者」と呼んでいます。これらのプロ農業者の方々でも色々な悩みを抱えています。『こだわりの農産物が評価されていない』、『6次産業化で開発した加工品を誰に売ればいいのかわからない』などの相談が寄せられています。このような方々に農業ビジネスを成功させるため、事業構想の「見える化」による事業化支援を、また販路開拓につながる「売れる仕組みづくり」を企画・提案することで販売支援を行っています。
さらに、農業経営も普通の企業と同じで人材がとても大事です。たとえば経営者の留守を預かる農場の管理者がなかなかいませんが、これからはそういうマネジメントのできる人が益々必要になってきます。このような人材育成にも積極的に関わっています。私たちは、このような「事業化支援」、「販売支援」、「人材育成」の3つの柱を中心に、「民の力」、「民の知恵」を活用して、プロ農業者の想いやチャレンジを総合的にサポートしているのです。
規模拡大に伴う課題を「プロ農業者」と共に考える
プロ農業者が経営を発展させていく過程で、 様々な課題が出てきます。施設型農業であれ ば、何をつくるか、それをどういう技術をもってつくるかですから、規模よりも質が重要になります。しかしながら、土地利用型農業であれば、規模は経営にとって大事な問題になります。規模を拡大する時に、問題となるのは効率です。例えば、規模を拡大するので、今までより馬力のある機械を導入したいと思っても、農地が分散していて、その馬力に合った作業が出来なければ、せっかく投資してもコストを下げる方向に働きません。
プロ農業者は、色々な制度の中で動いてい ます。特に農地制度です。これはいくら高い意識を持った方も自分で好き勝手には行えません。きちんと農業委員会の手順を踏まないといけません。最近は農地集積バンクが発足して、農地を斡旋してくれる事になっていますが、 まだ期待されるほどの効果が上がっていないのが現状です。
私たちにできることは、その時に、規模拡大に伴うリスクを一緒になって考えるということなのです。プロ農業者は、相談することによって、自分の課題が明らかになり、そして自分では気付かなかったリスクが見えてくるのです。
今、求められる「需要に対応した米づくり」
プロ農業者が今、意識すべきは、「需要をつかむ」ということです。稲作に特化して話をすれば、日本農業のあるべき姿というのは何かというと、「需要に対応した米づくり」だと思います。言い換えれば、何の米をつくるかを、経営者の経営計画と販売戦略できちんと選択することです。米の需要というのは、10年前とずいぶん変わってきていると思います。今、ご存知の通り、外食が増えています。それは人口動態がその需要の姿をつくっているわけです。要するに個食化している。所帯数は減っているわけではなく、一人所帯、二人所帯が増えているのです。当然、米の消費量は少なくなります。
そして、やはり少子高齢化の問題です。一定の歳になればほとんどの方が介護に入ります。介護に入ると、そうでない時と違う食生活に移行せざるを得ないんです。できるだけ食べやすい、消化のしやすい、しかも栄養がそれなりに摂れるものにと。そうして介護食、病院食という別のジャンルが生まれる。その市場がどんどん拡大してきます。需要は主食用米の世界でも大きく変わっていくのです。また、需要に見合った米づくりとなれば、輸出用米についても同じことが言えます。輸出先の需要がどうかと考えた上で、どういう輸出用米をつくるか、どういった形で輸出するか。そういった事を考えるべきだと思います。
それともうひとつ、日本の穀物でほぼ自給ができているのは米だけで、あとは出来ていません。要するに飼料穀物というのはほぼ全量輸入であるということです。畜産という世界は、世界の穀物の需給変動で価格が変動し、それが経営に影響するわけです。輸入する穀物と日本の穀物とを一緒に穀物政策を考える時代に入ってきたのだと私は思います。だから今、国が推進している飼料用米づくりなどは、徹底したコスト削減を前提とすれば、私は基本的には方向として間違っていないと思います。
農業の見える化と新技術で新しい農業の実現へ
プロ農業者が抱える課題は多岐にわたっています。プロ農業者は自分の課題を理解しているんですが、経験と勘を「見える化」することについては慣れていません。それを一緒になって「見える化」することによって、農業者が自分の課題を本当にしっかりと受け止めることができます。また、ICT技術や直播栽培など新しい技術というものは、リスクを感じるとなかなか最初の一歩を踏み出せないものです。そういうところについては、クボタを始めとする農業機械メーカーや地域の研究・普及機関等が協力して、一定のレベルになるまでは、サポートすることも必要だと思います。そうすることで農業の有力な武器になります。
核になるところが呼びかけてサポートシステムをつくり、新しい技術、機械を含めて実証しながら、その過程で農業経営者に自信を持ってもらう。そこから生まれる経験とデータを基に、一緒になって新しい技術に挑戦していただきたいと思います。それが新しい需要に挑戦することにつながり、農業のあるべき姿を実現できるのだと信じています。