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水稲鉄コーティング直播栽培技術の3つのポイントを解説!
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「攻めの農業」を実現する鉄コーティング直播#02

稲|

発芽苗立、雑草防除、生育調整

発芽苗立、雑草防除、生育調整

省力化・低コスト化が実現できると、急速に普及が進む鉄コーティング直播栽培。栽培技術安定の3つの重要ポイント、①発芽苗立②雑草防除対策③生育調整について解説します。
(この記事は、平成26年6月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.29』を元に構成しています)

 


 

1はじめに

 米を取り巻く環境の変化に対応して、需要に即応した米づくりの推進を通じた水田農業経営の安定を図るとともに、生産コストの低減を目指して様々な政策が打ち出されています。このように農政改革及び米政策が変化し、米の市場競争が一段と加速する中、生産現場では、米の省力、低コスト生産技術が求められており、「鉄コーティング直播栽培」の導入、普及拡大が見込まれています。
 今回、栽培技術安定の観点から次の3つの重点ポイント、
❶発芽苗立安定と苗立数の確保
❷雑草防除対策
❸生育調整による
 適正な茎数、穂数の確保
について紹介します。

2栽培技術の重要ポイント ①発芽苗立安定と苗立数の確保

 水稲直播栽培技術には、乾田直播や湛水直播など様々な直播栽培技術がありますが、クボタが推奨している専用機や多目的田植機+直播機による鉄コーティング直播機械化栽培技術もひとつの有力な手法ではないかと思います。もともとは農研機構の近畿中国四国農業研究センターで開発された技術ですが、安定した技術として確立してきたということで、今、全国に普及が広まっているのだと思います。最初のうちは、鉄粉のコーティング後の酸化による発熱などで失敗する農家もあったと思いますが、その発熱をうまく抑える管理とか、発芽率を維持したコーティング種子を保存できるとか、この辺りの技術がしっかりと確立されてきたということだと思います。また、鳥害を受けにくいということも明らかになり評価が高まってきたということではないでしょうか。
 それと農家の方はやはり収量に敏感ですからね。例えば私たちは、コストが2割下がれば1割収量が低くてもいいんじゃないかと考えるんですが、農家の方は1割低ければ気にされます。そこは移植と同等でないと技術としてなかなか定着しないんです。普及が進んでいるということは、移植並みの収量を取れるほどに栽培技術や周辺の機械が整ってきたということだと思います。

2栽培技術の重要ポイント ②雑草防除対策

 直播栽培技術の歴史は古く、これまで種々の方法が開発されて来ましたが、雑草防除が普及推進上の大きな課題となっています。しかし、クボタの鉄コーティング直播は、播種同時除草剤散布ができるため、従前の直播栽培の課題であった雑草も比較的少なく、直播栽培のイメージを変え、これにより普及が大きく前進しました。
 先ず、播種同時除草剤散布薬剤が開発普及し、一発剤や体系処理剤による適正雑草防除技術が確立していますので、紹介します。

⑴播種時(播種同時散布)薬剤
 クボタでは、高速高精度点播播種機を開発し、普及しています。本機は、鉄コーティング種子播種時に種子播種、除草剤散布、側条施肥を同時に行う構造となっています。
 播種同時除草剤は、現在、「オサキニ1キロ粒剤」「サンバード1キロ及び3キロ粒剤」「プレキープ1キロ粒剤、フロアブル剤」が、また、北海道、東北、北陸適用のヒエ剤「ヒエクリーン1キロ粒剤、ワンステージ1キロ粒剤」が開発され、イネの幼少期での雑草防除が確立しています。

⑵体系処理除草剤
 直播栽培では、移植栽培より圃場生育期間が長くなるため、体系処理除草剤を散布します。
 播種同時除草剤散布後、イネの本葉1~1.5葉期に直播登録されている「初中期除草剤」を図-1で示すとおり散布します。
 さらに、雑草多発田や取りこぼし雑草が目立つ場合は「中後期除草剤」を使用します。ヒエ中心の場合は「クリンチャー剤」等、広葉雑草中心の場合は「バサグラン剤」、ヒエ、広葉雑草が混発残草の場合は「ワイドアタック剤」を使用してください。
 圃場の大きさや散布労力及び器具などから「粒剤」、「フロアブル剤」などを選択して散布します

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2栽培技術の重要ポイント ③生育調整(目標穂数確保)

⑴溝切り、中干しの実施
 移植栽培と直播栽培の生育の違いは、直播は植傷みがない事から1号分げつから発生するため、茎数過剰になり易く、茎が細く「茎質」や「耐倒伏性」低下の原因になります。また、穂数過剰になりますと「登熟歩合」や「品質」低下が懸念されます。
 このため、最高分げつ期茎数が500~550本/㎡を超えないように、早目に溝切り、中干しを実施します。
 実施時期は基本的には、8葉期ですが、目標茎数が確保できたら7葉期でも行います。移植栽培より「早め・強め」に行い、中干し以降も間断かん水により、土壌硬度をある程度維持します。

 溝切り、中干しの効果は、
❶無効茎の発生抑制による適正生育量の確保
❷下位節間の伸長抑制による倒伏防止
❸土壌への酸素供給による根の健全化
❹溝切りによるフェーン現象による高温などの緊急時の迅速なかん水、秋の長雨による停滞水の排水
❺収穫時の機械作業可能な地耐力確保
など、高品質良食味米生産には、重要な作業技術です。

⑵理想生育相と耐倒伏性
 安定した収量、品質を確保するには、適期播種や出穂晩限の登熟日数を確保する必要があります。このため、適期播種による過剰生育や過剰籾数を防止し、㎡当たり籾数は26000~28000粒程度にし、多肥栽培や生育調整の遅れを防止します.

⑶点播と耐倒伏性
 表面播種は倒伏に弱いと言われますが、点播によって、移植並みの茎質、稈質を確保するとともに、生育相も株が開帳するため、耐倒伏性が増します。
 また、播種後の水管理も大切で、湛水条播出芽管理よりも落水点播出芽管理すると倒伏に強く、収量も安定多収が確保されます。

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3今後の展望に

 稲作農家の減少や高齢化が今後も着実に進展し、大規模経営と生涯現役で米作りする農家という農業構造の二極化が一層加速すると考えられます。このため、市場競争に打ち勝つための省力、軽労化、低コスト生産の新技術(イノベーション)として、播種から収穫までの機械化一貫技術体系が確立しつつある「鉄コーティング直播栽培」の導入が各地で広がっています。今後も、生産者、地域、関係機関、団体が一体となって、一層の普及推進が図られることを期待しています。

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