全国的に、2000年以降伸び悩んでいる大豆の収量。水田転換畑での大豆栽培で、安定的に多収を実現するには、排水対策の徹底と、輪作による地力低下への対策が必要です。大豆の安定多収に貢献する技術をご紹介いたします。
(この記事は、平成26年12月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.30』を元に構成しています)
1伸び悩む国産大豆の収量
米の生産調整の一貫として、水田での大豆栽培が1970年代に始まりました。当初は水田転換畑に適した大豆品種がほとんどなく、排水対策技術も確立されていなかったことから、大豆の収量は低迷しましたが、80年代に入ると、これらの問題も徐々に改善され、大きな豊凶の差はありますが、収量は緩やかに増加する傾向にありました。
しかしながら、2000年代に入ると、収量は伸び悩むようになっています〔図1〕。この主な原因は、水田転換畑での大豆栽培の宿命である排水対策が未だに徹底されていないことに加えて、水田の畑地化による地力の低下が一因としてあげられます。
2大豆300A技術に加えて土づくりを実践
本稿の特集事例で取り上げられた富山市の前田仁一さんの大豆づくりは、まさに国産大豆が直面しているこれらの問題に果敢にチャレンジし、大きな成果を上げられています。その成功の秘訣は徹底した排水対策に加えて〔図2〕、土づくりにあるといえます。
前田さんは、ヘアリーベッチを緑肥作物として導入することにより、地力を高めた安定多収栽培を実践されています。
3畑地化による地力低下の回復には有機資材の投入
水田での大豆を含む畑作物の栽培は、土壌への酸素供給を高めこれまで蓄積されていた土壌有機物の分解を促進させ、地力窒素の放出を進めます。そのため、転作初期の80年代には、肥料なしでも400㎏/10aの多収が得られたという話をよく聞きます。しかしながら、水田転作が始まって40年以上経つ現在ではブロックローテーションを守っている地域においても豊作年の最大収量は300㎏/10a程度となっていて、その主な原因は地力の低下にあると考えられます。
堆肥を施用していない水田転換畑では堆肥連用転換畑に比べ、明らかに地力窒素の低下が起こっています〔図3〕。しかも、大豆の作付率を60%以上(≒水稲ー大豆ー大豆)とすると、地力窒素の維持目標となる加給態窒素含量80㎎/㎏を下回っています。これを回避するためには、適切な田畑輪換に加えて、堆肥、稲・麦わらの投入、緑肥作物の導入等、有機物を圃場に還元することが必須といえます。有機物の施用は、生育中後期、特に開花期から登熟期にかけて旺盛に生育する大豆が必要とする窒素の供給源となるだけではなく、強粘質の土壌での透水性や通気性の改善、根粒活性を高める働きもあり、大豆の収量・品質の安定化には不可欠と言えます。前田さんが取り組まれているヘアリーベッチの栽培は土壌窒素〔図4〕を高め、大豆収量〔表1〕を高めます。前田さんはプラウ耕により、緑肥作物を深層まで鋤き込むだけでなく、耕盤を破壊することによって大豆の根を深くまで伸長させることを可能として、干ばつ等の不良環境に強い大豆栽培を実現されています。
4地力低下に対応したもう一つの選択肢
畑の肉と言われている大豆は子実に約40%のタンパク質を蓄積することから、子実が肥大する時期に多量の窒素を必要とします。この窒素を空気中の窒素を固定して大豆に供給する根粒の働きだけで賄うことはできません。1980年代には開花期後10日目頃に窒素を追肥する技術が開発され、北日本を中心に実施されたことがあります。しかしながら、施肥効果が安定せず、表層からの施肥のため根粒が高濃度の窒素に直接触れ、固定窒素の働きが阻害されるため、減った固定窒素を補うために多量の窒素を施用する必要があったことから、次第に実施されなくなってきました。
これに対して、最近、地力の低下した水田転換畑において、うね立て播種と同時に肥料を深層(15〜20㎝)に施肥ができるインプルメント〔図5〕が実用化されたことにより、窒素肥料(大豆化成肥料、緩効性肥料、石灰窒素)を深層施肥することによって多収を得ようとする試みが、東北地方を中心に実施されています。大豆の初期生育は緩慢で、開花期以降に生育が旺盛となります。前述のように、子実の肥大に必要な多量の窒素を根粒からの固定窒素だけで賄うことはできないため、生育中・後期の窒素供給は多収大豆を実現するためにはとても大切です。深層施肥は肥料を深く置く事によって〔図6〕、生育中期以降に肥効が現れ易く、大豆の窒素吸収パターンと良く整合しています。また、表層の追肥窒素のように根粒の固定窒素の働きを直接阻害することが少なく〔図7〕、効率的に窒素供給ができます。さらに、根をより深く伸長させることができます〔図8〕。
地力が低下して収量が上がらない転換畑では、播種前のスタブルカルチ、サブソイラ等による耕盤破壊で、大豆が根を深く伸ばせるようにしてやれば、深層施肥による増収が期待できます。ただし、黒根腐れ病等の立枯れ病の発症圃場のように、生育中・後期の根の生長が抑えられる圃場では、効果はあまり期待できませんので、ご注意下さい。