三重県伊勢市の北部に位置する豊浜地区は、古くからの青ねぎ産地です。この地域では、以前は200名ほどの生産者が青ねぎを栽培していましたが、現在は約30名の生産者に集約され、JA伊勢青ねぎ部会を設立して周年栽培に取り組んでいます。近年、新規就農者の増加により産地拡大が進む一方、天候不順による湿害で、品質低下が産地全体に起こり、湿害対策が喫急の課題となっています。
(この記事は、平成28年6月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.33』を元に構成しています)
湿害による生育不良が産地全体で発生
伊勢志摩地域農業改良普及センターで、青ねぎを担当する小林さん。「伊勢は、ねぎの指定産地になっているので、青ねぎは、地域農業を維持、活性化していく上で大切な品目です。しかし、ここ数年、ゲリラ豪雨や台風時の大雨で、かん水状態になる程、水はけの悪い畑が目立ってきました。以前はこのような心配はほとんどなかったんですが、生育の方でも湿害の影響を受け、根腐れから生じる葉色の低下、葉先枯れ等の品質低下が産地全体で発生しています。そこで、今一度、土壌の物理性の改善が必要と考え、排水対策による実証調査を行うことになりました」と話します。
平成28年度の全国農業システム化研究会の現地実証調査として取り組む今回の実証は、栽培地域、土壌条件の異なる6戸1.2ha圃場で排水対策実施区を設け、(1) 土壌の排水性調査 (2) 生育・収量・品質調査 (3) 経営メリット、収益性改善効果を実証して、慣行区と比較調査を行います。
表面排水・簡易暗きょ・耕盤破砕の3つの排水対策を実施
事前に実証圃場ごとに、土壌の断面調査を実施し、土性や硬度を調べて対応する技術、機械を検討した小林さんは、「実証圃場では、多くは作土の上層と下層で硬さが違いました。掘っていくと途中で土の色が黄色になり、粘土層になっているのが見てわかります。ロータリ耕などによって作土層や耕盤ができ、それが原因で、排水性が悪くなり、圃場にプールのような水が溜まってしまうのだと思います」と推測。
そこで、「今回は物理性の改善を目的に、土中に空洞を作って水の通りを良くする『カットドレーンによる簡易暗きょの施工』、表面排水に重点を置いた『溝掘機による額縁明きょの施工』、土壌を膨軟にする『パラソイラーによる耕盤破砕』という排水対策技術の代表格となる3パターンの実証を選びました。この地域でこのような大きい機械が入ったことは今までありません。私も含めて、その機械がどういったものかわからない状態からのスタートでした」と説明します。
農家とともに実証し課題解決を探る
「今回の実証は、6〜7月の梅雨時と、9〜10月にかけての台風時を想定して、その時期に圃場に青ねぎが植わっている状況を設定して栽培していただきます。その期間における定植から収穫までの青ねぎの生育調査を実施する予定です。土壌については、施工前と施工後に土壌水分、土壌硬度を測定して実測値を比較します。また、土壌分析も合わせて行い、土壌の化学性に与える影響もしっかり見ていきたいと思います。私自身、今回の排水対策は、かなり効果があると思っていますので、生産者の方に声をかけさせてもらいました。実際、4月下旬に簡易暗きょと額縁明きょ、耕盤破砕を施工した際の農家の方の反応を見ていると、例えば明きょの施工の場合、『こんなに溝が掘れると思わなかった』など、パワクロや作業機の凄さを今回初めて実感して頂いたと思います。『効果が見えること』で、『農家の方の気持ちが動く』ということは大きな成果だと思います。そういった意味でも、とても価値のある実証だと思います」と小林さん。農家の方々と気持ちを合わせて排水対策に取り組むことで、産地の課題を解決に導きたいと考えています。
排水対策の現地実証に生産者の期待が高まる
JA伊勢青ねぎ部会で部会長を務める戸上さんは、産地全体で発生した生育不良の原因究明と対策を普及センターと一緒に検討するため、自身の圃場での実証調査を依頼しました。「せっかくの実証試験なので、最も水はけの悪い圃場で排水対策の効果を見てみようと考えました。カットドレーンをはじめ、3種類すべての排水対策を施します。色んな排水技術と機械を自分の目で確かめ、部会として、今後に活かしていければと思っています。結果が楽しみですね」と話します。
また、同じ青ねぎ部会に所属し、昨年、湿害で大幅な減収量となった西村さんは、今回の実証で、額縁明きょの施工とパラソイラーによる耕盤破砕を行いました。「排水の悪い箇所はあきらかに土の色が違いましたね。私の圃場では、昨年、湿害が特にひどく、収穫できないと判断したものは残念ながら鋤き込みました。実証でよい結果が出れば、ぜひ排水対策を取り入れていきたいですね。長く続けていくためには土づくりが必要だと思います」と今回の実証調査に大きな期待を寄せています