【大豆300AレポートNo.7(後編)】適期収穫・乾燥調製のポイントと成果について お気に入りに追加
技術顧問によるワンポイントアドバイス・評価
お気に入りに追加

大豆300Aレポート#16

大豆|

【大豆300AレポートNo.7(後編)】適期収穫・乾燥調製のポイントと成果について

【大豆300AレポートNo.7(後編)】適期収穫・乾燥調製のポイントと成果について

大豆の品質と収量の向上に取り組んできた大豆300Aレポート。最終回は、適期収穫・乾燥調整のポイントについて、クボタの松永亮一技術顧問がポイントを解説します。
動画はこちら
(この記事は、平成27年10月26日発行のクボタの営農ソリューション『大豆300AレポートNo.7』を元に構成しています)

 


 

収穫作業について

 大豆は成熟期に達しても、子実、茎の水分が高いので、直ぐにコンバイン収穫することはできません。コンバインによる収穫では子実の品質低下を避けるため、水分含量がおおよそ、子実で約20%、茎水分で約50%までに乾いてから行います。子実は丸い整粒となり、爪で押せば少し跡が残るくらいです。指で押して粒が変形するようですと、乾燥が不十分です。また、茎はポキッと折れる程度まで乾燥していることが大切で、折れづらい茎は、茎汁が汚粒の原因となってしまいます。実際には茎と子実がバランスよく乾燥してくれる年は多くなく、茎の乾きぐあいをもとに収穫するのが現実的です。
 大豆の莢は子実を外界からの風雨から守ってくれますが、完全ではありません。収穫適期までに乾燥した大豆でも湿度が高くなる夜間には吸湿し、昼間は乾燥するという日変化を繰り返します。気温が低下しているので、一気に品質が低下することはありませんが、雨が多い年では、種子の水分変動が大きくなり、種皮の色落ちやしわ粒発生など、外観形質を劣化させます。さらに、国内の主要品種であるフクユタカ、エンレイ、タチナガハは成熟した莢が割れやすく、適期を逃すと収穫ロスが大きくなります。その他、府県で栽培されているかなりの品種が莢の割れにくさが十分でなく、コンバインのヘッドロスを大きくする原因となっています。収穫適期を逃して、せっかく実っていた子実を畑にこぼすのはもったいないことです。

適期収穫に貢献するWRH1000C

 1経営体当たりの作付面積が大きい生産者・組織が増えるなかで、高品質の大豆を適期に収穫するためには、作業速度に優れ、汚粒発生、収穫ロスを極力抑えることができるコンバインが求められます。特に汚粒の発生を抑えてくれる能力は、等級検査の結果に大きく影響しますので、とても重要です。
 WRH1000Cは、脱こく部がバータイプで、脱こく空間が非常に広いため、今年のような多収年でも、脱こく部で収穫物が滞留したり、引っかかったりして、作業途中にコンバインを止め脱こく部を掃除することもなく、スムーズに高速で連続作業ができました。さらに、青立ちが多く茎の水分が多い収穫物や雑草を少しくらい掻き込んでも、品質に悪影響が出ませんでした。WRH1000Cは汚粒の発生をほとんど気にせず、高効率的に収穫ができる能力的に非常に素晴らしいコンバインです。

画像を拡大

商品価値を高める乾燥・調製について

 大豆の乾燥は、米麦よりも低い温度でゆっくりと乾燥させる必要があります。特に高水分の大豆を乾燥させる場合は、送風のみで予備乾燥させてから加温を開始します。これによって、裂皮やしわ粒の発生が抑えられます。次に、等級に大きく影響する外観形質を整えるために、異物に加えて被害粒、未熟粒を選別機で取り除きます。さらに、紫斑粒、褐斑粒などの着色粒は色彩選別機で取り除きます。生産者が大豆を自ら販売する場合、選別機と色彩選別機は必須となります。

個人で乾燥・調製するメリット

 前田さんは、契約栽培している大豆については直接業者へ販売されていますが、これによって、流通コストが省けるのは大きなメリットです。
 現状、水稲中心の大豆生産者・組織がそこまで大豆に手を掛けるのは、なかなか難しいと思いますが、規模が大きくなり、かなりの量を契約栽培されている前田さんのように大豆を経営の柱にされる場合は、個人で乾燥・調製する方が、経営的には非常に有利です。

まれに見る高品質・多収の大豆が出来た

  2015年の北陸地方は、空梅雨で湿害の発生がほとんどありませんでした。9月の一時期、日照が不足しましたが、以降は天気に恵まれたため、莢付きが良く、まれに見る高品質、多収の大豆が出来ました。300A実証圃場では、乾燥・調整後の収量が280kg/10aで、目標とする300kg/10aを少し下回りましたが、大粒比率が95%となり、他のどの圃場よりも大きな大豆ができました。特に乾燥が続いた7、8月に適期に灌漑されたことが大粒比率を高める結果につながりました。
 雑草対策については、今年、乾燥していたために、全般的に雑草の発生量が少ない年でした。前田さんの慣行栽培での圃場は、中耕・培土も含めて良く管理が出来ており、適期に万能散布バーで除草できたので、非常にきれいな圃場となりました。一部の狭畦播種の圃場については、万能散布バーの導入が遅れたので、時期を逸して草が残ってしまいましたが、来年は適期に散布することで、申し分のない除草ができると思います。  また、摘心については、確実に倒伏防止につながっています。摘心することで、草丈を短くし、地上部を軽くしたことで、安定した草型になって倒伏を避けられました。倒伏があると、刈り残しが増え減収します。摘心をして倒伏を防いだことにより、収穫ロスをなくした分は確実に収量増加につながりました。

経営安定のための大豆作

 将来、減反政策がなくなり、お米の消費量そのものも減少していく中、水稲だけを作って生き残っていくことは困難で、水田で複数の品目を生産することがより重要となります。野菜も重要な品目ですが、土地利用型の野菜でないと農地は維持できません。
 現在、食用大豆の国内需要量は約90万tであり、その中の約25万tが国産大豆です。需要と供給には、まだまだ大きなギャップがあるので、大豆を経営の柱にして間違いはないと思います。その際、必要なのは安定した量の大豆が収穫できる栽培技術です。もちろん、多収技術も重要ですが、天候の悪い年でもある程度の収量を上げられる技術を確立しておかないと生き残っていけません。「今年は収量が低かったので、必要量出せません」というのでは、契約先の実需者の皆さんからは海外の大豆の方が良いとなってしまいます。やはり、どんな年でも最低180kg以上。できれば200kg以上の収量があげられる技術を持っておくというのが、今後、大豆作が水田営農の柱となるための重要な課題です。



大豆300Aレポート バックナンバー
#01 【大豆300Aレポート】連載開始!
#02 【大豆300AレポートNo.1(前編)】徹底的な排水対策で単収300kgを目指す!
#03 【大豆300AレポートNo.1(後編)】排水性を大きく向上させる「地表排水」と「地下排水」
#04 【大豆300AレポートNo.2(前編)】継続した土づくりで、地力改善!
#05 【大豆300AレポートNo.2(後編)】大豆多収のための土づくりのポイント
#06 【大豆300AレポートNo.3(前編)】耕うん同時うね立て播種で重粘土壌を克服!
#07 【大豆300AレポートNo.3(中編)】ほ場条件ごとにオススメの播種法と機械を図解!
#08 【大豆300AレポートNo.3(後編)】圃場条件・目的に合わせた播種のポイント
#09 【大豆300AレポートNo.4(前編)】適期除草がポイント!雑草に勝てば、必然的に収益につながる
#10 【大豆300AレポートNo.4(後編)】高品質・多収栽培を実現するための雑草対策のポイントについて
#11 【大豆300AレポートNo.5(前編)】摘心とかん水で増収を狙う!
#12 【大豆300AレポートNo.5(後編)】高品質・増収のための「摘心」・「かん水」のポイントについて
#13 【大豆300AレポートNo.6(前編)】莢付きの良い大豆に手ごたえを感じています!
#14 【大豆300AレポートNo.6(後編)】病害虫防除のポイントと生育について
#15 【大豆300AレポートNo.7(前編)】今年はまれに見る大豊作の年!300kgを超えた圃場がたくさんあります

この記事をシェア