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技術顧問によるワンポイントアドバイス
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大豆300Aレポート#12

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【大豆300AレポートNo.5(後編)】高品質・増収のための「摘心」・「かん水」のポイントについて

【大豆300AレポートNo.5(後編)】高品質・増収のための「摘心」・「かん水」のポイントについて

増収につながる「摘心」と「かん水」について、クボタの松永亮一技術顧問がポイントを解説します。
(この記事は、平成27年7月21日発行のクボタの営農ソリューション『大豆300AレポートNo.5』を元に構成しています)

 


 

倒伏防止・収量向上が期待できる摘心

 摘心とは大豆の主茎の頂部、先端部分を切除する技術です。古くからあった技術ですが、最近、摘心できる機械が実用化されたために、注目を集めるようになりました。摘心機は、主茎頂部を切断できる高さに刈り刃を調整しますが、その高さ以上に2から3枚の本葉が伸びています。従って、摘心作業を行うと同時に頂部より上にある葉も同時に切除されます。
 摘心の大きな目的は2つあります。1つは倒伏防止です。大豆は開花期以降にグッと草丈が伸び大きくなるのですが、その前に主茎を切ることによって、主茎の伸びが止まるため倒伏に強くなります。
 もう1つは収量の向上です。大豆は主茎を切ることで、分枝の生長が非常に良くなり、さらに、摘葉により、株全体の受光量が増えます。分枝の節数が増え過繁茂になりづらく、地力の高い土壌では増収につながります。

摘心の適期を見極める

摘心の適期には幅があり、だいたい7葉期ごろから開花前です。7葉期は7枚本葉が出て、主茎の節数は11節(子葉節、初生葉節を含む)ぐらいあります。
切る目安は、主茎の一番端から10cm前後です。7葉期ですと地際から測ると35~40㎝くらいの高さで切ります。主茎を切ると上に伸びずに、分枝の伸びが良くなるので、非常にコンパクトな草丈になります。もともと分枝を多く出す品種を余り早く摘心すると、株基部の分枝の生長が促進され過ぎ摘心の効果がはっきりしなくなるので注意して下さい。

摘心の効果が期待できる条件

 東海・関東地方で栽培されている「フクユタカ」や、宮城県で栽培されている「ミヤギシロメ」は適期と推奨されている時期に播種しても、蔓化、倒伏しやすいため、そのような品種を栽培する地域では、摘心は一般的な技術としてお勧めです。
 また、早播きをする場合もお勧めです。例えば、北陸地方では、推奨される播種時期は6月上旬ですが、天候が安定している5月末までに播種を終えたいというニーズがあり、5月の中旬、下旬から播種が始まります。その場合、株が大きくなり易いため、特に梅雨期の日照不足が顕著で大豆が徒長しやすい年では、摘心をして倒伏を抑えます。
 それともう1つは、狭畦栽培のように土寄せをしない場合です。倒伏に強い品種や晩播栽培なら良いのですが、必ずしもそうでない場合は、倒れやすくなります。その場合にも摘心をして、大豆が伸びるのを抑え倒伏を防ぎます。

摘心の注意点

 摘心機による摘心は、前述のように摘心・摘葉技術です。完全展開した本葉を2-3枚切るため、一時的に生長を抑制します。大豆の場合、その後回復する能力はあるのですが、地力が低い圃場などは、回復の程度が悪く全体的に生育が抑えられ、増収に結びつかないケースもあります。
 また、干ばつ気味の年は草が伸びずかえって減収する恐れがあるため、そのような場合は摘心してもあまり効果はありません。さらに言えば、摘心しなくても倒伏しない状況で、わざわざ摘心をする必要はありません。

莢数確保につながるかん水

 収量について最も敏感な生育ステージが、開花期から莢形成期です。この時期、湿害や乾燥害に遭うと莢数が確保できず多収が望めなくなります。今年の北陸地方は晴天が続き乾燥に見舞われた年だっため開花期以降の莢ができるまでの間、適期にかん水を行った前田さんですが、着莢数確保においてかん水はプラスに働きます。

かん水を行うにはまず排水対策から

 水田転換畑は傾斜がなく水平に作られているため、水が流れにくい特徴があります。かん水を行う場合、水口側から入水しますが、圃場全体に水を入れるには時間がかかり、水尻側まで水が到達した頃に水口付近では湿害が出ている場合があります。前田さんのように排水対策がしっかりとされている圃場では、かん水をしても水が溜まる懸念がないため、湿害に遭う可能性が非常に少なく、安心して適期にかん水ができるというメリットがあります。うね間かん水を行う際には、入排水をスムーズにするため、培土でできたうね間の溝と排水溝をつないでおきます。うね間かん水で圃場全体に水が行き渡ったら、圃場に水が停滞しないよう速やかに排水します。高温時に水が停滞すると根痛みを起こします。

水稲より水を多く要求する大豆

 水田転換畑で大豆を栽培するにあたり湿害対策は大きな命題ですが、十分な給水は大豆の生育に重要です。子実収量あたりに必要な水の量は、大豆では水稲より多くなります。大豆の最適な地下水位は30-50cmであると言う試験結果からわかるように、多収をあげるためには十分な水が必要です。
 大豆の場合、乾燥害の症状ははっきりしています。水がある状態なら葉がまっすぐ立つのですが、乾燥すると葉が裏返って白く感じます。それが乾燥害の兆候です。
 晴天時の大豆は葉から盛んに水分を蒸発させ、葉温が上がるのを防ぎますが、根の水分吸収能力がこれに追いつかず、水分ストレスがかかり葉に乾燥害の兆候が表れることがあります。土壌に十分な水分があれば、夜間に水分を吸収して元の状態に戻るのですが、朝になっても水ストレスから回復しないで、葉が裏返って乾燥の症状が午前中から表れている場合は完全に水不足ですので、できるだけ早くかん水を行います。

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■ 5 通りのかん水の仕方

①十分な水が確保でき、かつ本暗きょ、額縁明きょがあり、弾丸暗きょを施工した圃場
暗きょ出口を閉め、額縁明きょに水を給水し地下潅漑を行う

②暗きょの上流端が用水路につながる圃場
暗きょ出口を閉め、上流端を開けることで暗きょ上流端から水を入れ地下潅漑を行う

③額縁明きょがあり、地下排水の対策をしていない圃場
額縁明きょに給水し、中耕培土されたうね間から圃場全体にかん水

④額縁明きょがない圃場
直接うね間に給水し、圃場全体にかん水する

⑤大豆の潅漑水が確保できず、暗きょがある圃場
梅雨明け後、比較的早い時期に暗きょを閉める。暗きょ出口の高さを高くし、小さな雨を蓄え干ばつを回避。
大雨があった場合は速やかに暗きょを開放

ポイント
かん水を行う時は、茎疫病に注意します。
茎疫病は表面かん水で広がるため、発病の多い箇所では、地下潅漑が効果的です。



大豆300Aレポート バックナンバー
#01 【大豆300Aレポート】連載開始!
#02 【大豆300AレポートNo.1(前編)】徹底的な排水対策で単収300kgを目指す!
#03 【大豆300AレポートNo.1(後編)】排水性を大きく向上させる「地表排水」と「地下排水」
#04 【大豆300AレポートNo.2(前編)】継続した土づくりで、地力改善!
#05 【大豆300AレポートNo.2(後編)】大豆多収のための土づくりのポイント
#06 【大豆300AレポートNo.3(前編)】耕うん同時うね立て播種で重粘土壌を克服!
#07 【大豆300AレポートNo.3(中編)】ほ場条件ごとにオススメの播種法と機械を図解!
#08 【大豆300AレポートNo.3(後編)】圃場条件・目的に合わせた播種のポイント
#09 【大豆300AレポートNo.4(前編)】適期除草がポイント!雑草に勝てば、必然的に収益につながる
#10 【大豆300AレポートNo.4(後編)】高品質・多収栽培を実現するための雑草対策のポイントについて
#11 【大豆300AレポートNo.5(前編)】摘心とかん水で増収を狙う!

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