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農村工学研究所所長インタビュー
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水田のフル活用・高度利用で経営の安定化と地域の活性化#01

稲|

次世代型農業水利システムを構築し、水田フル活用に貢献する技術を開発

次世代型農業水利システムを構築し、水田フル活用に貢献する技術を開発

近年、食料自給率向上のために注目されている水田のフル活用・高度利用。麦・大豆・飼料作物・新規需要米・稲発酵粗飼料等を水田に作付し、水田の有効活用をはかりますが、そこで欠かせないのが、排水対策です。水田のフル活用・高度利用のための技術開発について、農村工学研究所の小泉所長に伺いました。
(この記事は、平成26年12月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.30』を元に構成しています)

 


 

農業・農村を活性化する農工研の主な活動

 農村は、「農業生産の場」「生活の場」「多様な動植物の生息場」として機能し、国民全体の財産としての役割が期待されています。私たちは、農村の活性化に貢献できるように、大きく左記の4つの分野で技術開発目標を掲げ活動しています。

①食料の安定供給に関する研究
 ●高生産性の水田、畑輪作システムの開発
 ●施設園芸作物の高収益安定生産システム
②地球規模の課題対応の研究
 ●地球温暖化に適応する技術
 ●バイオマスの循環システム
③地域資源活用に関する研究
 ●水利システムやダム、頭首工、ため池などの
  水源施設の保全管理
 ●防災、減災のための技術
 ●エネルギー開発、生物の多様性を備えた
  水路の設計
 ●耕作放棄地対策、農村の活性化
④原発事故対応の研究
 ●高濃度汚染土壌等の除染、モニタリング

 これらを推進することで、私たちは今、国の目指す未来の農業に向けて、大区画化と大規模経営化に対応できる次世代型の農業水利システムを構築しようとしています。具体的には、農業水利施設のストックマネジメント、圃場レベルの用排水の技術開発と整備、農地そのものの面的な整備を展開しているのです。

パイプライン化による品質向上効果

 圃場レベルの整備の例をあげれば、そのひとつにパイプライン用水路の整備があります。近年、気象変動の影響と思われる夏季の高温傾向によって、稲の高温登熟障害が増加しています。発生を防ぐ方法として冷水を圃場に供給することがありますが、開水路地区では水温が高く冷水を確保することが困難です。パイプラインの場合は、水源から水路末端部までほとんど水温が変化しません。パイプライン化すれば、冷たい水を直接水田に供給できます。
 福井県での調査では、パイプライン整備が完了した集落で収穫された米は、気温の影響を受けず、白濁粒や胴割米が減少し、一等米比率が高くなりました。パイプライン化することで水管理を自動的に行えるだけではなく、品質向上にも貢献できるわけです。これは大きなメリットです。また、九州では、畑地灌漑が非常に多いんですが、パイプライン化したことで、冷たい水を野菜に掛けることができ、施設園芸にも活用できています。

地下水位制御システム「FOEAS」で水田フル活用

 今回のテーマは水田のフル活用ということですが、わが国の食料自給率を向上させるには、水田における麦・大豆・野菜類などの栽培が不可欠です。しかし現実的には重粘土地帯や、湧水で湿地化して耕作放棄地が発生している谷地田地帯など、転換が困難な水田も少なくありません。そこで研究・開発したのが、地下水位制御システム「FOEAS(フォアス)」です。FOEASは、湿害や干ばつに関わらず常に地下水位を設定高で維持する地下灌漑システムです。作物によって望ましい地下水位は異なるので、それぞれ作物に適した地下水位に調節することで、高い品質の作物をより多く収穫することが可能になります。

農家が自力で取り組める低コストな排水改良技術

 FOEASは補助事業的な技術で、国の圃場整備を契機に設置しようというものですが、農家が自力で取り組める低コスト排水改良技術の開発にも取り組んでいます。
 水田における麦や大豆の生産拡大には、排水対策が必須です。農家自身が資材を使わず簡単・迅速に簡易な暗きょを施工できる穿孔暗きょ機「カットドレーン」を開発し、市販しました。これは、トラクタのけん引作業により40~70㎝の任意深に無資材で四角い通水空洞を成形するものです。農地の排水性を大がかりな暗きょ工事に頼ることなく手軽に確保できるようになり、地域の畑作物の単収を向上させ、農業収入の増加が期待できます。
 また、堆肥や収穫後の作物残渣などの有機質資材を簡易に心土に投入することで、排水性や通気性、保水性を改善する補助暗きょ工法「カッティングソイラ工法」も低コストで簡易な土層改良法として注目されています。

産学連携で取り組む農業・農村の振興

 エネルギーシステムにおいては、地中を熱源とするヒートポンプを利用した温室の研究も行っています。私たちが目指すのは、地域で使うエネルギーを地域で生産し地域で消費する、まさに地産地消のエネルギー供給です。地中熱、水中熱、風力エネルギー、こういうものをミックスして地域のエネルギーを自給しようと考えています。なおかつ炭素貯留によるCO2削減で環境保全にも貢献できる農業を実現できないかと考えています。ここにFOEASやカットドレーンなど色々組み合わさってくればさらに高度なシステムとなると思います。
 より省力化を目指す大規模経営に取り組む平地農村と、どちらかといえば中山間地域を主体としたエネルギーを自己供給できる農村地帯という2つの異なる農地活用の流れが、今後の技術開発の方向ではないか、そして、その両面に少しでも貢献できればと考えています。
 社会の問題が多岐に亘る中で、すべての問題を研究機関だけで解決することは不可能です。クボタを始めとする民間企業と連携協力して、より効率的に技術開発を進めることが必要不可欠な時代になっています。共にあるべき農業、あるべき農村の姿を描いて、必要な技術を共に開発できればと思います。

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