渡辺喜代司税理士の なるほど!経営さぽーと#05

決算書の見方(その2)

決算書の見方(その2)

経営を安定的に行うためのに必要となるのが決算書の知識。今回は貸借対照表について、基本的な考え方と設備投資をする際に見るべきポイントを解説します。
(この記事は、平成28年6月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.33』を元に構成しています)

 


 

貸借対照表って何?

 貸借対照表は「一定時点における財政状態を表すもの」と言われています。青色申告をしている農家さんの12月31日現在の貸借対照表が一般的です。ここでは、貸借対照表からお金の流れを見てみます。自分で用意したお金で会社を作る→銀行からお金を借りる→機械を買う この一連の流れで、貸借対照表の変化を見ていきます。
 まず、事業資金として用意した300万円を資本金とします。すると現金300万円と資本金300万円が表示されます(図①)。次に銀行から現金を700万円借りました。すると現金は700万円増えて1千万円になり、資本金以外に借入金が700万円増えます(図②)。
 ここで、貸借対照表を右側から見ていきます。右側は「調達源泉」といって、どのようにお金を集めてきたかということが表示されています。つまり、自分で集めてきた300万円と銀行から借りてきた700万円が表示されています。そして、左側は集めてきたお金をどのように使っているのかを表しています。今はまだ何も使っていないので、現金として1千万円あります。
 次に、1千万円のコンバインを買ってみましょう。そうすると現金1千万円を支払って、機械を手に入れるので、左側の現金が機械に入れ替わります(図③)。貸借対照表の左側は、右側で集めてきたお金をどのように扱っているかを表していて、ここでは機械の購入にお金を使ったことが分かります。これを「運用形態」といいます。
 次に、お金の使い方の可否を見ていきたいと思います。機械を買った後の貸借対照表(図③)をよく見てください。現金が1円もなくなっています。つまり機械を動かすための燃料も買えません。これは明らかにお金の使い方を間違えていることが分かります。この一連の取引をよく考えてみましょう。皆さんが機械を買うときに、欲しいコンバインが1千万円とした場合、自分の持っているお金が300万円の時は、いくらのお金を借りますか。多くの方は700万円を借りますよね。これは、機械代金を用意することしか考えていない結果なのです。実は機械を買う場合などのように設備投資をするときは、運転資金も必ず必要になるため、その分も一緒に用意することを考えないといけないのです。そうするともう少し多めにお金を借りるか、もう少し安い機械を買うことになりますが、安いものでは希望の設備投資ができなくなるので、運転資金も併せてお金を借りるのが一般的です。

設備投資は長期返済計画で!

 このように、貸借対照表は、お金の流れと使い方を表していることが分かります。また、貸借対照表の右側は、「調達源泉」を表していて実物はないことも分かります。例えば、借入金や資本金というお金があるのではなく、お金の用意をする方法なのです。これに対して、左側の「運用形態」では、現金や機械といった現物があります。図③のように、資本金や借入金があっても現金がない状態からもこのことが分かります。
 さらに、設備投資をするときのお金の使い方が良いか悪いかを確認するために、「長期固定適合率」という分析計算 があります(算式①)。本来、固定資産を購入するためには、返済に追われることのない自己資金で用意するのが理想ですが、そうすると本当に欲しいものが買えません。例えば、5条刈りのコンバインが欲しいのに、バインダーを買うようなものです。この算式は、固定資産を自己資金と固定負債の範囲内で、購入できているかを確認するためのものです。このため、計算結果が100%未満になることが望ましいのです。設備投資のポイントは、お金を借りる場合には返済期間が長くできるものを選ぶことです。この方法を選ぶのは、お金の使い道が設備投資だからです。つまり、設備投資というのは、その機械を買って農産物を作り、それを販売して資金を回収します。しかし、買ってきた商品をすぐに売る棚卸資産では、資金の回収までの期間に大きな違いがあります。このため、できる限り長い期間で支払う借入金での購入が望ましいことが分かると思います。
 次回は、貸借対照表から、運転資金が十分あるかの分析と農業ならではの特徴を解説します。

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