前回、『経営にとって最も大事なのは資金繰りです』というお話をしました。いくら利益が出ていても手元にお金がないと支払いができなくなり、会社は潰れてしまいます。このため資金繰りの状態を調べるための方法として、流動比率と当座比率を紹介しました。これらの分析上の数値が悪いと資金繰りが悪い状態にありますが、今回はこれらの数値を改善するにはどのようにすれば良いか説明します。
(この記事は、平成29年6月発行のクボタの営農情報誌『U(ユー)元氣農業 No.35』を元に構成しています)
資金繰りの改善
流動比率、当座比率の計算式はいずれも分母は流動負債で、分子はそれぞれ流動資産と当座資産です。例えば、図①の貸借対照表は苗代の未払い(買掛金)20万円、現金が10万円、お米(製品)の在庫が30万円です。
この場合の流動比率は200%(算式①)で当座比率が50%(算式②)となります。この状態では買掛金を支払うためには、現金だけでは足りないのでお米を販売して現金に換えるいわゆる現金化をしてからでないと支払うことができません。このため買掛金の支払期限までに現金を増やす方法を考えなければなりません。
まず、計算式から見る分析結果を良くする方法は『分子の金額を増やす』か、『分母の金額を減らす』です。これが資金繰りを改善するヒントとなります。
1. 金融機関からお金を借りる
お金を借りることで現金が増えるので分子の金額が増えて結果的に分析結果の改善ができます。お金を借りたことで図②の貸借対照表となります。しかしこの方法にはポイントが一つあります。それはお金の借り方です。もし苗代の支払期限の後にすぐに借入金の支払期限が来る場合、買掛金を支払うことができますがすぐに借入金を支払わなければなりません。しかもその支払いに充てるお金もありません。結局お米を売って現金化しなければ何も変わりません。
2. お金の借り方を考える
1でも述べたようにお金を借りるとお金は増えますが、すぐに返済しなければならない借り方では、資金繰りの改善にはつながりません。これは買掛金と短期借入金は同じ流動負債で、算式上も流動負債の中で買掛金が短期借入金に入れ替わるだけなので分析結果は変わらず改善にはつながりません。このように買掛金の返済期限と変わらないお金の借り方では意味がないことが分かります。つまり作ったお米を完全に売り切るまで少し余裕のあるお金の借り方であれば資金繰りは少し楽になります。算式を見れば分かるように固定負債となる長期借入金は分析の算式には関係ありません。長期借入金によりお金を増やせば、分母の流動負債を増やすことなく分子の流動資産や当座資産だけを増やすことができるのです。このため分析結果は改善できます。
3. 改善の効果
お金を借りてきて苗代を支払う方法は、お金の支払う期限を延ばしただけです。つまりお金を借りるという行動は支払いを遅らせるという『資金繰り』の改善する方法の一つなのです。もしお米を現金販売ではなくツケ(売掛金)で売った場合であってもお金を借りていれば苗代の支払いができ、ツケを回収した後にお金を返せば資金繰りはうまく出来ていることになります。このようにお金を借りるという行動は支払いを遅らせるという効果がありますがあくまでも『遅らせる』もので『利益が出る』改善をしているものではありません。
4. 最後に
経営の巧者は資金繰りが上手く、お金の動きを熟知しています。つまり支払期限を遅らせた間にいかに利益を稼ぐかということに力を注ぎます。お金を借りて機械を買うこと、従業員を増やすこと、これらすべてお金を借りてくることでビジネスチャンスに自分の持っているお金以上の規模で利益を稼ぐのです。そして稼いだ利益から返済をします。
例えば10%の利益率がある商売で自己資金の100万円だけを使う場合は10万円の利益ですが、1千万円借りてきたら100万円の利益を稼ぐことができます。つまりお金を借りることは、決して悪ではなく、ビジネスチャンスを逃さない経営の巧者が使う魔法の杖なのです。但しこの杖は利益を稼ぐ事業計画と返済計画ができない人は振ってはいけません。