『2050年の農業・農村を考える討論会』 お気に入りに追加
GROUNDBREKAERS2025の人気コンテンツを記事でご紹介
お気に入りに追加

日本の農業は今、急激な変化が進んでいます。農業従事者の高齢化や気候変動をはじめ、不連続な変化に直面しているからこそ、長期的な視点で農業の将来像を考える必要があります。農地、インフラ、食料安全保障、そして農村社会のこれから…豪華ゲストが農業の未来図を描き、2050年の農業・農村について徹底討論しました。今、農業従事者は何を考えて行動すれば良いのか、ぜひ参考にしてください。

【登壇者】

2050年までに農業が乗り越えるべき課題とは

若園:長期的な視点で農業を考える意義について、吉田さんはどのようにお考えですか?

吉田:これまでも日本の食料と農業の未来について様々な予測がなされ、大きな変化は起きないのではないかと言われていました。
そんな楽観論が潜んでいた中で、ここ数年の大きな不連続な変化をふまえると、長期的なビジョンで考えることに大きな意義があると思います。

若園:ありがとうございます。では、2050年までに現代の農業が乗り越えるべき課題について伺いたいと思います。中森さんはどんな課題を強く意識していますか?

中森:私は食料安全保障が日本の最大の課題だと思っています。2025年問題で団塊の世代が大量に離農することが懸念される中で、異常気象でさらに深刻化し、令和の米騒動のようなことがもっと顕在化するのではないかと心配しています。

若園:中森さんのお話に関連して、三菱総合研究所が行ったリサーチ結果によると、2020年から2050年にかけて農業経営体数は82%減少し、耕作面積はマイナス36%、農業産出額はマイナス50%になると予測されています。

吉田:様々なテクノロジーが発展しても、農業にとって農地は欠かせないインフラです。特に人へカロリーを供給してくれる作物
には、農地が不可欠。食料安全保障のことを考えれば、この農地をいかに守るのか。
それだけ減少を食い止めることができるのか。そこは極めて重要な論点になるのではないでしょうか。

若園:久松さんはどのような課題を意識されていますか?

久松:私は社会インフラの老朽化を懸念しています。例えば日本は米が安定して収穫できる国ですが、そのために平らな田んぼを作り、水を引くなどのインフラの整備は、公金を使って初めてできることになります。ところが今は、それらが保てなくなってきている。橋やダムなどの重要な社会インフラの維持で予算がいっぱいになっている中で、中山間地の儲からない田んぼのインフラをどうやってリニューアルするかは、大変な問題です。農村を守る、守らないという議論以前に、そもそもインフラがダメになると日本の農業が立ち行かなくなる。そんな状況が喫緊に迫っていると思います。

若園:インフラ整備は、今後の農業・農村を考える上でもすごく重要であり、解決策を講じなければいけない問題ですよね。岩佐さんは、どのような課題を意識されていますか?

岩佐:生産者と消費者が農産品に対して持っている価格の意識のギャップが、すごく大きくなっていることが課題だと感じています。例えば生産者側からすると、資材の価格が5年前と比べて現在は倍くらいになっています。一方でイチゴの価格は1.5倍ほどにしかなっていない。生産者から見ると安く、十分に価格転嫁できていない状況です。今後、農産品の小売価格もどんどん上がっていくでしょうし、そうなると貧困層や低所得層が新鮮な野菜や果物にアクセスできなくなってしまう。そんな問題も併発する社会を、非常に懸念しています。

若園:ありがとうございます。今お話しいただいた課題をふまえて、みなさんが考える2050年の農業・農村の未来図について伺っていきたいと思います。

3人の農業経営者が考える、2050年の農業・農村の未来図

中森 剛志さん

私が考えるのは、「環境保全型大規模農業」です。ひと言で言えば、日本の農業の生産性を上げること。集中投資によって大規模農業を育成し、集約させることができれば生産性も上がり、コストも下がります。また、最先端技術も取り入れ、農業生産だけではなく、農村でエネルギーも作る。農村の付加価値を最大化させることが、最も大事だと考えています。

久松 達央さん

私は「選択と集中による縮小時代の合理的農業」を考えています。テクノロジーの発展によってモジュール化が進み、昔は徒党を組まなければできなかったことが、今は一つの経営体で可能になりました。今後は農業と都市機能で国土をどのように使うかというグランドデザインが必要になり、選択と集中によって儲かるものしか残らない時代になると思っています。

岩佐 大輝さん

私の未来図は「ビジネス推進で価値を磨く地域農業」です。農業もスタートアップ的に取り組むという提案になります。大きなビジョンを掲げて非自前主義で新しい産業を作ることと、地域の産品を絞り込んで一点突破主義で進んでいく発想が必要ではないでしょうか。そしてノウハウの形式知化を推進し、戦略的に勝てる農業経営をするべきだと考えています。

2050年に向けた農業・農村に必要な転換点

若園:みなさんの未来図を伺いましたが、その点も含めて、2050年の農業技術について考えていきたいと思います。中森さんはどのような技術が必要になると思いますか?

中森:食料安全保障を確立させるところから逆算して考えていて、生産性を向上させるにはAIのマネジメントシステムが一つあると考えています。これから日本は労働力も減っていくことが考えられる中で、マネージャー人材を育成して供給できるかが大きな課題。私たちも現在開発中で、そういった技術が農業界に実装されていくことで、農業現場のマネージャーの右腕がAIになる。そんな時代がやって来ると思っています。

吉田:中森さんの未来図には、エネルギーというワードも出ていましたが、その真意も聞かせてください。

中森:一番重要なものですね。今、日本がエネルギーを失うと全ての生産が止まってしまいます。だからこそ、農場のエネルギーを自分たちで自給する。この体制をいち早く作ることが私の問題意識としてあります。クボタさんが取り組んでいる電動トラクタをはじめ、石油に代わる資源で動く機械の開発も必要だと感じています。

吉田:確かに、それも一つの重要な要素かもしれませんね。

若園:岩佐さんがお話しされていた、ノウハウの形式知化についても詳しく聞かせてください。

岩佐:私の就農時は、農業歴40年のベテラン農家さんを師匠に迎えて教えを乞おうとしたんですが、「まずはイチゴに話しかけろ!」と言われまして…。どれくらいでイチゴと話せるか聞くと、「俺に15年ついてきたら分かり始める」という返答が…。幸い私はIoTのスタートアップ出身だったので、まずは彼にウェアラブルメガネを装着させて、行動を全て形式知化してマニュアルにしたんです。すると、わずか3年ほどで周囲の平均収穫量の3倍に。きちんと形式知化すれば、安定生産できることを実証できましたね。

吉田:大きな成果ですね。久松さんは、モジュール化の進行と、所有・経営が分離していくというお話もありましたが。

久松:農業界以外でも匠の技があり、かつては師匠の背中を見て盗むという形でしか技術の伝承がされてきませんでした。50年前まで遡れば、外食産業も小売業も個人商店ばかりで、そこにPOSシステムというテクノロジーとチェーンマネジメントのノウハウが生まれ、経営は一変。そうなると関係のないところから大規模経営が可能なプレーヤーが参入し、業界地図が入れ替わっていく。私の言うモジュール化とは、岩佐さんの言うノウハウの形式知化であったり、新しい技術の導入でもあります。それが入ることで最初は全てのプレーヤーの生産性が少しは上がりますが、淘汰されてプレーヤーが入れ替わり、業界構造が変わっていくという話です。

若園:なるほど。それでは農業従事者は今何をするべきでしょうか?3人の考えを聞かせてください。

久松:日本の農業は今、すごく変化しています。今ある形がこのまま続くわけではない、そんな意識を全員が持つことが大事だと思います。

岩佐:農業従事者と言っても、経営者です。国内外にライバルがいて、漫然と経営していれば淘汰されます。戦略的思考を持って勝つという、スタートアップ的な考えで取り組むべきではないでしょうか。

中森:私は日本中の農業経営者を本当に尊敬しています。食料安全保障を本気で守るために、農業に取り組んでいることに誇りを持ってほしい。日本の農業従事者全体で、付加価値を高められるチャンスがあればトライすること。そうやって未来を一緒に作っていく必要があると思います。

日本の農業・農村についての話はまだまだ尽きません。2050年を見据えた参考になるお話は、是非アーカイブ動画をご覧ください。

注目の記事

“旬”なキーワード

よく一緒にみられている情報