種籾温湯消毒設備 北海道 留萌地区水稲種子処理センター
近年、農薬や化学肥料の使用を抑え、より栽培作物にも環境にも優しい農業を目指す、いわゆる『環境保全型農業』が、生産者はもとより消費者の側からも注目を集めています。
留萌地区の稲作地帯を管轄する3つのJA、JA苫前町、JA南るもい、JAオロロンが連携し、従来の薬剤消毒に代えて、水稲種子の温湯消毒を行う施設、『留萌地区水稲種子処理センター』を開設したのも、そうした環境保全型農業に地域が一体となって取り組んだ事例の一つです。 3JA共同運営による同センターは、うるち米を中心に、もち米、酒米まで含め、およそ4700haが栽培される留萌地区全域、全稲作農家が使用する水稲種子が対象。初年度である今年すでに、約154tに及ぶ水稲種子の温湯消毒を行う実績を上げています。
水稲種子温湯消毒に地域全体で取組む
「せっかく取り組むのなら、留萌地区全体でやろう」。3JA、地域の米生産者、普及センター等、地域農業に関わる者すべての気持ちが一つになった結果、誕生したという留萌地区水稲種子センター。それについてJA苫前町営農部営農係長の前川さんは、「地域ぐるみで環境保全型農業を目指そうとする中で、水稲栽培に関しては、まず種子の部分についての取り組みを進めるのが第一歩、という認識で地域としての方向性が一致し、 センター設立が決まったんです」と、その経緯を説明します。とはいえ、こうしたプラント式の温湯消毒施設の例は、道内でもまだ数多いとは言えません。
そのため、3JAではセンター開設の1年以上も前から、全国各地から情報やデータを集め、またスタッフ各自が温湯消毒の技術や仕組みについて、熱心に勉強したといいます。時には道外にも視察に赴き、実際に稼動する施設を見学するといった手間も惜しみませんでした。

「うちの場合、温湯消毒をした後、種子を乾燥させてから農家さんに供給を行います。このように空気循環型による乾燥処理まで施設で行うというのは、道内では初めての取組みなんです。こうした部分は、岩手県や宮城県等、温湯消毒の先進地で、現地のJAの方にも協力していただいて勉強をさせてもらいました」と前川さんはいいます。また、「扱うのが種子ですから、農家さんの側で不安に思うことがないように、事前の説明もしっかりと行うようにしました」とも。
農業施設も手がける㈱クボタ、普及センターとも協力し、管内1市6町で各1回、計7回の説明会を開催、「温湯消毒の技術や期待できる効果をはじめ、地域として環境保全型農業に取り組むことの意義、また具体的に農薬を使用しないことによる廃液処理問題の解決等、細かいところまで丁寧に説明するように努めました」と前川さん。こうしたきめ細かな対応によって、広い地域、多くの人が関わるプロジェクトでありながら、スムーズな連携が図れたといいます。
■留萌地区水稲種子処理センター
水稲種子温湯消毒の作業の流れ
■留萌地区水稲種子処理センター
水稲種子温湯消毒の作業の流れ
3JAから8名のスタッフが集まり、3月6日~29日まで作業を実施。1日6tを目安に、24日間で154tの処理を行いました。
① 種子のネット詰め
種子をネットに詰める。ネットごとにロットナンバーを記し、万一の場合にも追跡ができるようにすることで、品種が混ざるのを徹底して防止している。
② 温湯消毒
60℃のお湯に10分間浸すのが基本。品種によって、7分以上、10分を越えない範囲で浸す時間を微調整する。
③ 冷却
一旦冷却する。この時点の水分含有率は約28%。
④ 脱水
脱水機を使用し、水分が約21%程度になるまで脱水する。
⑤ 乾燥
乾燥機で、最終的に水分が15%程度になるよう調整する。

メーカーの協力でできた新たな取組み
「こちらとしても、初めてのことばかりですから、メーカーであるクボタさんの側で蓄積されているノウハウの部分が、非常に参考になりました」。施設を稼動するに際しては、メーカーとの協力が不可欠であったと前川さんはいいます。留萌地区全域の水稲種子を扱う同センターには、10種類を越える品種が持ち込まれます。これらの品種同士が、消毒の過程で混ざってしまうことは、施設として一番避けなければならない事態。これに対して留萌地区水稲種子処理センターでは、品種ごとに種子を入れるネットの色を変え、その上さらに品種名・ロットナンバーを記した防水紙を封入することで、品種が混ざる危険を排除しています。
「このようなやり方も、クボタさんから提案してもらいました。持っている情報量が多いので、こちらも信頼して相談することができましたね」という前川さん。さらに、「メーカーの協力を得て、実際に機械を動かし、作業をしてみたことで、技術的に問題がないことが確認でき、安心して本格的な稼動に移ることができました」と、事前に3度行ったという機械の稼動テストも、非常に参考になったと前川さんはいいます。
こうしたこともあって、今年が稼動初年度であったにも関わらず、特に大きなトラブルもなく、予定通りに作業は終了。
「結果はこれから、ということになりますが、期待できると思います」と笑顔を見せる前川さんです。

美味しさに+αの留萌産米を目指して
生産規模はそれほど大きくないとはいえ、タンパク含有率の低さでは、道産米の中で3年連続1位という輝かしい実績を記録している留萌産米。これまでも、地域を挙げて良食味の追求が行われてきました。今回、種子の温湯消毒が開始されたことで、さらに安心・安全面での強化が図られたことになります。
「留萌管内で栽培されるお米は、すべてが温湯消毒でや っているということになれば、対外的にも大きなPRポイントになると思います」と、留萌地区水稲処理センターにおける取組みの意義は大きいと前川さんは強調します。
今後、3JAでは環境保全型農業に取り組むという主目的は共有しながら、そのやり方の部分で、それぞれ独自の目標を設定していくことになるといいます。これを円滑に進めていく上で基点としての役割を果たすのが、この水稲種子処理センターです。 同センターをベースに、留萌地区の良食味米づくり、ブランド強化はさらに進められていきそうです。
