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GROUNDBREAKERS特集 中山間地で「スモールスマート農業」に取り組む担い手の新たな挑戦に迫る!

GROUNDBREAKERS特集 中山間地で「スモールスマート農業」に取り組む担い手の新たな挑戦に迫る!

省力化や生産性の向上が期待され、新しい技術の開発や実証が進むスマート農業。しかし、ほ場が小区画かつ多筆、分散している等の課題がある中山間地では、スマート農業の導入に一歩踏み出せない方が多いのが現状です。そのような中、6次産業化にも取り組み、地域を盛り上げたいと、創意工夫を重ねながら、「スモールスマート農業」に挑戦する先駆者がいます。今回は柔軟な発想で、中山間地でスマート農機を活用する先進事例をご紹介します。

 


 

NB21GS/ARC-500
ユーザーインタビュー




費用対効果を高めるために、農機をシェアリング

 静岡県北西部に位置する、浜松市天竜区春野町。周囲を森林に囲まれた中山間地で、山間地特有の寒暖差のある気候を活かし、古くから銘茶の生産が行われています。同地で特産品のお茶をはじめ、水稲や水菜、大根を栽培するのが、「笑顔畑の山ちゃんファーム」代表の山下光之さんです。

 春野町の基幹産業である茶葉の栽培ですが、「農業者の高齢化と後継者不足で、耕作放棄地が増え、問題となっていました」。そこでこの現状を打開しようと、山下さんを含む地元の若手農家が学生と共同で結成したのが、春野耕作隊です。「借り受けた耕作放棄地を再生し、そこで農産物をつくって、地元の方に提供しています。」その取り組みの一つが、切干大根の生産・販売です。山下さん自信作の切干大根は、水戻し不要。そのまま食べることができ、するめのように噛めば噛むほど甘み・旨味が口いっぱいに広がることから、「山のするめ大根」と名付けてブランド化しています。

 この春野町の新しい特産品を全国展開しようと、生産拡大を目指す中、中山間地域における農業振興を重要視する浜松市から、「中山間地でスマート農機を活用できないか」と声が掛かります。「ほ場1枚の面積が小さく、平地で使う大型農機は使えないけど、誰でも簡単に使えて、小回りの効く小型農機のシェアリングを春野耕作隊のメンバーですることで、費用対効果も高められないかと考えました。」こうして2021年、国の「スマート農業実証プロジェクト」に参画。小規模ほ場が分散する不利な条件下でも持続可能な「スモールスマート農業」のビジネスモデル確立へ向けて、挑戦が始まりました。

小さいほ場でも小回りの効く、小型の直進自動操舵トラクタを導入

 シェアリングを行うのは、ドローンとラジコン草刈機、直進アシスト機能付き小型トラクタNB21GSです。機械は山下さんが保管・メンテナンスを行い、コミュニケーションアプリを通じ、メンバー間で貸し借りを行っています。「大根の委託栽培でトラクタを活用してもらっています。年間使っても50日ぐらいかな。その間で上手く日にちをずらしながら運用しています」。

 NB21GSは、大根の耕うん作業と、うね立てで使っています。「作業幅の重なりを少なくして耕うん回数を減らすことが、作業時間の短縮につながるので、これまで重複しないよう真っ直ぐトラクタを走らせることに神経を使っていました。でも、NB21GSはハンドル操作をしなくても、自動で真っ直ぐ走ってくれるので本当にラクになりましたね。特に直進距離が長くなるほど、メリットを感じます。誤差も10㎝あるかないか。ズレても補正ボタン1つで簡単に補正できるのが、ありがたいです。」直進精度が求められるうね立て作業にも、その効果は大きいと言い、以前はどうしてもうねが曲がることがあったそうですが、「直進アシスト機能のおかげで、真っ直ぐできれいなうねが立てられるようになり、気持ちも良いんです。」と、モチベーションも上がったそうです。

 「あと、大きく変わったのは、作業効率。今までだと5aの面積であっても、1回休憩を入れないと、疲れたんです。しかも作業中、後ろの作業機を確認するたびに、作業を止めていました。」時間のロスがあったと言います。「でも、NB21GSなら、作業を止めることなく余裕を持って後方確認することができ、休憩を取らなくても10a、20aと作業できる面積が倍以上になりました。」山下さんは、大根の生産を現在の60a(うち20aは春野耕作隊に委託)から120aに拡大することを目指しており、NB21GSが規模拡大の一翼を担っています。

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危険を伴う草刈り。
斜面が多い中山間地だからこそ、ラジコン草刈機が良かった

 山下さんがシェアリングを行う中で、最も良かったと言うのが、ラジコン草刈機。「中山間地の一番の課題が草刈りなんです。」今まで肩掛け式の刈払機を使っていましたが、刈刃がむき出しになっているため、接触したり巻き込まれたりすると、大事故につながります。しかも、斜面が多い中山間地域での草刈りは、足場が安定しないため平地より危険度が高まります。「足を滑らせたりしないよう気を付けるなど神経を使う作業で、どうしても危険を伴います。」

 そのため、山下さんが担当していましたが、「作業後の疲労が大きく、1回ではたくさん刈れないし、草刈りをした日はもう、他の仕事をしたくない。」と言うほど肉体的にも、精神的にも大きな負担でした。「それがラジコン草刈機で作業するようになって、草刈りが遊び感覚になったんです(笑)。燃料がなくなるまでノンストップでやっていても、疲れない。これが一番のメリットですね。」作業時間も大幅に短縮したと言います。「10aの面積を刈払機で作業すると、3時間も掛かる重労働でしたが、ラジコン草刈機だと半分の時間でできるようになりました。」

 また、炎天下に行う夏場の草刈りに頭を悩ませていましたが、「刈払機で作業すると30分も身が持たなかったですね。でも今年、従業員にラジコン草刈機で作業してもらったところ、涼しい日陰から遠隔操作で草刈りができ、疲れなかったと言っていました。」熱中症のリスク回避にも、ラジコン草刈機は効果的なようです。

 「もう一つ気に入っているのは、刈った草を細かくできること。刈払機だと長いまま残りますが、ラジコン草刈機だと5㎝、10㎝サイズに切断できるので、ロータリで畑にすき込んだ時、草が絡まずラクなんです。」ラジコン草刈機は、2枚のフリー刃が丈の長い草を細かくカット。また、草の巻きつきを抑える「巻きつき防止ハネ」の働きにより、耕作放棄地等、草のボリュームが多い場所でも高能率に作業できます。

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中山間地で持続的に発展するには、スマート農業の力が必要

 社長業に現場対応に、日々忙しくされる山下さん。これらスマート農機の導入で、働き方が大きく変わったそうです。「ラジコン草刈機は操作が簡単なので、妻にも作業をお願いしましたし、普段トラクタに乗らない従業員もNB21GSがあることで、作業できるようになりました。」

 今まで以上に戦力が増えたことで、「9割近く現場に出ていたところ、今では6割が現場で、残りの4割を切干大根の販売促進や事務仕事等の時間に充てられるようになったんです。大根の栽培面積を増やしたところで、商品が売れなければ在庫が増えるだけ。そのためにも、売れる仕組みを作っていかないと。」山下さんには切干大根の生産拡大で、農地の活用を増やし、地域の雇用を創出するという大きな夢があります。 「中山間地は可能性がある。新しい発想で、新しい特産品を生み出すのもそう。」山のするめ大根の開発も冬場、畑を有効活用しようと大根を栽培したところからスタートしました。

 「中山間地ならではの寒暖の差が激しい環境で作られた大根は甘みが強く、切干大根独特の癖もないんです。農薬も使っていませんし、安心して食べられます。」料理のレパートリーも豊富で、時短調理できることもメリット。「一番簡単なのは、お味噌汁。浸透が早いので、すぐ食べられます。」ちょい足しアレンジとして、「カップラーメンに入れると歯応えがあってアクセントとなり、食物繊維も取ることができます。また、キムチと混ぜるといかキムチ風になり、お酒のおつまみとしてもおすすめです。」今では多くのファンがいて、「食卓に置いていたら、お客様の子供がおやつ代わりに食べていた」こともあるそうです。

 「中山間地は現状維持だと衰退します。だから、中山間地だからこその新しい取り組みに挑戦し、地域の皆で知恵を出し合い春野町を盛り上げようと話をしています。そういう意味でも、スマート農機を活用していくことが、大事だと思っています。」

 気になる費用対効果については、「2022年以降は、大根だけでなく、水稲の防除にドローンを活用したり、ラジコン草刈機のシェアを増やす等して効果を高めていきたい考え」です。「私の使命の一つに、子供たちにこの春野町で楽しく仕事ができる環境を、農業を通して作ることがあります。今まで農業は、3Kと呼ばれることが多く、キツいや危険等のイメージがありましたが、スマート農業を活用することで、農業が楽しみの一つになった。これからの農業は、カッコいいとか面白いとか、魅力がないと続かないと思うんです。」愛するふるさと、春野町の発展に尽力したいと、目を輝かせる山下さん。その大きな挑戦を、クボタのスマート農機が支えていました。

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GROUNDBREAKERS

 山下様にもご出演いただき、中山間地域の農業と地域おこしについて語る座談会が、2022年1月20日開催のオンラインイベント・GROUNDBREAKERSで配信されます。

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