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情報誌「ふれあい」No.35

〜農業の未来を語る特別対談「にっぽんの農業をもっと元気に 稲作農業の潜在力」〜

農業の未来を語る特別対談「にっぽんの農業をもっと元気に 稲作農業の潜在力」

まだまだ大きく伸びる産業といわれる農業の中で、国の根幹を支え、国土や食文化を守ってきた稲作農業。 山形県南陽市でこだわりの米づくりに励む稲作農家・株式会社黒澤ファーム代表の黒澤氏と、株式会社エムスクエア・ラボ代表の加藤氏が、これからのお米のあり方や可能性について対談。黒澤氏の米作りへの熱い思いと、農業を未来へつなぐ取組をご紹介します。
(この記事は、平成29年4月発行のクボタふれあいクラブ情報誌「ふれあい」35号を元に構成しています。 クボタふれあいクラブについては、お近くのクボタのお店までお問い合わせください。)

「生きることは食べること」の「生きる」に土がある。

加藤氏(以下、加藤)本日は、山形県南陽市から黒澤ファームの黒澤社長にお越しいただきました。よろしくお願いします。

黒澤氏(以下、黒澤)よろしくお願いします。

加藤 まず、黒澤ファームさんの歴史を拝見しまして驚きました。江戸時代の永禄年間に初代・元広氏が開墾され、「生きている土作りと、息づく稲作り」を家訓に500年近く独自技術を磨いてこられたとあります。その時代から理念がしっかりされていて素晴らしいですね。黒澤さんにもそのDNAがしっかり受け継がれているわけですね。

黒澤 実際には450年ちょっとで、過去帳によると私で21代目です。ただ私は、お米しか作れませんし、当たり前のことをしてきたと思っています。

加藤 いえいえ、ホームページにはお米へのこだわりやお米づくりのことから、おいしい食べ方のような消費者への啓蒙、さらには一つの料理のように食べてほしい、といった熱い思いが語ってあります。まさに「お米愛」に満ちていらっしゃいます(笑)。

黒澤 息子には野暮ったいといわれていますが(笑)、ただ、お米農家の方はみなさん同じ思いをお持ちではないでしょうか。

加藤 でも、それを実践されてきたのが黒澤さんらしさだと思います。その辺のところをもう少しうかがいたいのですが、昔から何十haもお持ちだったのですか。

黒澤 昔は2・8haくらいでした。私が農業を継ぐ時に農地を借りて規模拡大していきました。今は17haくらいですね。

加藤 野菜は規模拡大すると目が行き届かなくなり品質が落ちてしまうことがありますが、米はどうでしょう。500年近い知見があると大丈夫なのですか。

黒澤 お米で一番大事なのは太陽と土と水で、農家はちょっとお手伝いをしているだけ。その中で私は土づくりを大事にしています。なぜなら、土の中には約3000種類の微生物等がいて、地上の約2000種類の植物と合わせて計5000という生き物が生態系を守っているわけで、よくいわれる「生きることは食べること」の「生きる」の中に土の存在がある、と思うんです。そうした天の恵みを活かし、いかに農作物を作り続けるのか、そこに農業という産業があるのではないでしょうか。作ったものをどう売るかより、農業という産業を次の世代にどうつなぐか、消費者に農業をどう伝えるか、そこがすごく大事だと思います。

加藤 うわぁ、かっこいいですね。有機栽培をされているのもそうした理由からですか。

黒澤 私は有機とは、農業に必要な技術力を高める栽培技術だと思っています。お米が高く売れるという以上に、農業の技術力を高めることに価値があると考えています。

直販は自分が納得するために。
だから自分で考え行動できる。

加藤 ところで今、お米を直販されていますが、きっかけは何でしょう。

黒澤 平成5年に特別栽培米制度ができ、届け出をすれば個人で売れるようになりました。稲作農家の人はみんな「うちの米が一番うまい」と思っていますから(笑)、私も自分が納得できるよう直接売る決断をしたんです。

加藤 直接売るとはいっても、営業をしていくのは大変ではなかったですか。

黒澤 私の場合、地域一番店との取引をしたいと思い、まずは近くの寿司店から営業をはじめました。次に南陽市内の飲食店や近隣の赤湯温泉を回り、そして山形市内へ、東北エリアへと拡大していきました。

加藤 最初からうまくいったんですか。

黒澤 米を売り始めた平成5年は、大冷害による不作で初めて米を輸入した年。簡単に米が売れたんです。それで勘違いして。翌年から売上が落ち、これではダメだと思い直して東京への営業をはじめました。こんなに人がいるから、一軒一軒家を回れば売れるだろうと楽観していたら、誰も鍵を開けてくれないんです。しかたなく駅前でお米を配りました。でも受け取ってくれません、無料なのに。東京は冷たいなと(笑)。でも、ある日、幸運なことに近くの区民センターの方が「中でカルチャーセンターのお母さん方に配ったら」と声をかけてくださり、許可まで取ってくれたんです。その方の紹介ということで、あっという間に米は無くなりました。そこに「今食べているお米の産地は」「品種は」などアンケートハガキを付けたんです。それがけっこう返ってきてお客様のニーズがわかりました。私の米販売の基礎となり、今でも宝物です。

加藤 素晴らしいですね、全てご自身でですから。お手本です。そういう経緯があって、その後すぐに老舗料亭の「なだ万」さんにも行かれたのですか。

黒澤 いえ、それはもう少しあとですね。平成9年から作付けしているうちの主力の一つ「夢ごこち」というお米が「おいしい米づくり日本一大会」で最優秀の評価をいただいた年、平成13年でしたか、ある方の紹介でサンプル米を持って行ってからのおつきあいになります。

農業と食の間の物語を、どう消費者に伝えるか

加藤 少し質問を変えますが、今、黒澤さんが感じられている農業の課題って何でしょうか。私の立場からいえば後継者問題かなと思うのですが。

黒澤 確かに後継者不足は大問題です。ただ、私としてはそれ以上に、農業という産業の本質をどう消費者に伝えるか、そこが大きな課題だと思いますし、農業の今後にとって非常に重要なことだと感じています。例えば、農業と食の問題でいえば、生きるために命あるものをいただくことへの感謝である「いただきます」「ごちそうさま」の意味がわからない。「おふくろの味」が、今や電子レンジでチンの「袋の味」になっている。こういう子供たちが、今、増えています。食を中心にした家族や社会の輪を、命のサイクルを、いかに伝えるのか。それがなければ農業は前に進めないのではないかと危惧しています。

加藤 便利になり過ぎて、食と農業のつながりが意識されなくなってしまっているんですね。みんな農業に依存しないでも生きていけると思っている。もう一度、子供たちを土に戻さないと。

黒澤 震災の時「生かされている」という言葉が身にしみました。人間は天変地異があれば一人では生きていけなくなる。交通が途絶え食料がなくなるんです。
ですから、生きることに携わる一次産業はもっと誇りを持って消費者と付き合うべきだし、そうした産業にならないといけない。それを消費者にも理解してほしいから、伝えることが重要なんです。

加藤 私は、農業は今後、黒澤さんのように高い品質や価値を追求する「コト型」と生産性を高め需要に合わせて作る「モノ型」に二極化するように思います。どちらかに集約されるのではなく並立していくと思うんです。

黒澤 特に輸出ですね。いくら日本のお米がおいしくて安全と思われていても、今の価格では広がりません。海外でもコスト競争力で負けないお米が必要でしょう。

加藤 それは「モノ型」だと。

黒澤 そう思います。

加藤 黒澤さんのお米も海外へ行っているのですか。

黒澤 はい。ただ現地に行って感じたのは、お米に対する思いや文化の違いです。販売員すら日本の米の研ぎ方も炊き方も知らないため、おいしいご飯にならないんです。米だけではなく教育も含めてトータルに輸出しないとダメだ、と実感しました。



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農業はいろいろつながるから、楽しさも夢も可能性もいっぱい

加藤 その意味では日本も同じですね。農業と食の間に本来あるべき物語が途切れている。

黒澤 ええ確かに。その解決の事例といえるかどうかですが、私は東京のある高級外資系ホテルに約10年こまめに営業していました。ただ外資系なのでなかなかうまくいかなくて。すると料理長とマネージャーが「そちらで田植えや稲刈りができるのなら、まずその取り組みをしましょう」と山形に来てくれたんです。彼らは、おもてなしをする際、誰々が作った、と言うより「自分たちがお米づくりに取り組んで収穫した」と言いたいわけです。実はその方がお客様も納得するんですね。まさにこれが伝えるということ。私が語るより、ホテルの料理長が言った方がはるかに伝わるし、物語が生まれるんです。今年は、そのお店の名前をつけたお米を売ることになり、会社の仕事として来てくれるそうです。

加藤 もうモノからコトへ取り組まれているのですね。私も野菜でベジプロバイダーという生産者と購買者間をつなぐ流通をしていますが、ルールとして購買者には必ず一回は現場に来てもらっています。農家さんと会って話をすることで、飲食店さんも小売店さんも、みんな売上が上がっていくんです。お客様への説明が豊かになり、物語が生まれるんですね。

黒澤 ある有名なメジャーリーグの選手もうちのお米を食べていて、お会いしたこともあります。また、欧州のサッカー選手も同じで、6月にうちに行きたいと連絡が入っています(笑)。

加藤 それって凄くないですか。

黒澤 それもこれもお米の力です。お米があるから彼らとつながりができたと思います。だから、彼らにもお米のことを語ってほしいし、サッカー選手が来たら、ぜひお米について話し合いたい。クボタのトラクタに乗った写真を撮るとかして(笑)。

加藤 消費者の方もそういうことを求めているのでしょうね。ただ、その人たちに日本の農業は届いていない、潜在顧客を全然掘り起こせていない気がします。それを考えると、ふるさと納税などは、各農家さんが自分のことを伝えるいい方法かもしれません。

黒澤 それともう一つ、農業のテーマパークができないかと秘かに構想を温めているんです。そこに来れば農業体験ができて農業の本質がわかるイベントがある。例えば修学旅行で来た学生が感動して、お母さんになって子供と一緒にまた戻って来てくれる、そんな場があればと思うんです。

加藤 それ、いいですね。

黒澤 はさがけなどの原風景も含めて稲作文化ですから、その文化も伝える、食の大切さも伝える。その横では自動運転トラクタが動いている、とか。

加藤 大昔と昭和と現代の田んぼが並んでいるのも面白い(笑)。

黒澤 農業の楽しさ、素晴らしさ、おいしさをちゃんと伝えることが持続可能な農業に必要だと思うんです。メイド・イン・ジャパンの農産物を守ることが、自分たちの安全を担保するのだということを消費者に知っていただくことにこそ、農業の未来があると思います。クボタさんにも機械や技術はもちろん、その周辺のこともサポートしてほしいと期待していますし、他社が追いつけないくらいの仕事を一緒にしていければいいなと思います。

加藤 本当にその通りですね。農家さんや地域の方々、民間の企業だけではなく、農業や食に関わるいろんな人たちが参加できる仕組みや場をつくって、みんなで一緒に日本の農業を元気にしていきたいですね。

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